揺れる気持ち



「つ〜むじくん。」

 ぐりっ。

 突然脳天を指で強く押されて、樋口は顔を上げた。

「見ーっけた☆ どしたの?」

 何か言おうとした樋口に構わず、竜はちょこんと隣に座った。

「何でもないわ。」

 ぷいっとそっぽ向く樋口。

 竜は小さく息を吐いた。

「何でもなくないデショ。 最近おかしいにょ。」

 だんまりを決め込んだ樋口に、竜がもう一度溜息を吐く。

「あ、。」

 がばっと顔を上げ、樋口は慌てて辺りを見回した。

「うっそ〜ん♪」

 悪戯っぽく舌を出す竜を、恨めしげに睨む。

「ん、ん。 ってばちっちゃくて可愛くていい子だし。 でも危なっかしくて放っておけないもんにゃー。」

「そんなんちゃうわ。」

 無愛想に呟く樋口に、竜は首を傾げた。

「そんなんって?」

「好きとか、そんなんちゃうって事や。」

「別に、炎がを好きだなんて、一言も言ってないにょん。」

 樋口は言葉を飲み込んだ。

 竜にカマかけられた自分が、少し悔しい。

「いいぢゃん。 好きなんだもん。 違うなんて、否定する必要はないよ。」

 竜の言葉に、樋口は少し俯く。

「あかんのや。 オレは、誰かを特別に好きになったりしたら、あかんのや…。」

 どこか様子のおかしい樋口に、竜が眉を寄せる。

「何で?」

「好きになったら、あっちにも好きになって欲しいと思うやん? せやから、あかんのや。」

「そんなの普通じゃん? いいと思うよ。」

 樋口は俯いたまま唇を噛み締めている。

 竜は小さく息を吐いた。

「切ない表情(かお)も可愛いけど、も炎も、何も悪い事した訳じゃないんだから、普通にね。」

 樋口の顔を見ながら、続ける。

「今までと同じ通り、普通にしてよ。 回りも気を使うし、もいい気なんてしないでしょ。」

「…わかったわ。」

 じぃっと竜を見上げた。

「ん、何?」

 ぷいっと、視線を反らす。

「京ちゃんの事、黙っといたるわ。」

 一瞬呆気に取られるが、竜はすぐに真っ赤になって。

「そんなんじゃないもん!!」

 思いっきり否定した。



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