身長



「むぅ。」

 樋口は唸った。

 うっすら日の暮れかけた、いつもの体育館。

 モップ掛けを終え、藤真と一緒にを待っていた。

 明日から夏休み。

 もちろん、練習三昧であるが。

「…難しそうな顔して、何を考えてるんだ?」

 藤真が首を傾げる。

 樋口は、藤真を見上げた。

「ストレートとカーブ、ボスやったらどっちで勝負に出る??」

「は?」

 質問の意味がわからず、藤真は目をぱちくりさせた。

「何でもないわ。 忘れてくれ。」

 んーっと、思いっきり伸びをする。

 藤真がある事に気付いた。

「…お前、今身長いくつだ?」

「ほぅ、喧嘩売ってるん? 買うで。」

 頭に青筋マークを浮かべて、樋口が藤真を睨んだ。

「そうじゃない。 少し、伸びたんじゃないか?」

「ごめんなさい! おまたせです!」

 タイミングよく、が出て来る。

「丁度いいな。 二人、身長測ってみろ。」

 藤真の突然の声に、二人が顔を見合わせて首を振った。

「午後は縮んどるんや、測らん。」

「午後は縮んでるから、イヤです。」

 ほとんど同時にそう言われて、藤真は呆れたように息を吐いた。

「いいから、測ってみろ。」

 しぶしぶ、部室の隅に置かれた計測器へ。

 まずは、樋口。

「…ひゃく、よんじゅう………きゅうてん…ご!」

 が背伸びしながら、そう言う。

「149.5!? ほんま!?」

 樋口が飛び跳ねる。

「明日の朝もう一回測ろ! 朝やったら、150あるかも知らん!」

 続いての測定。

「…136………あるかなぁ?」

 樋口が言った。

 ギリギリ足りないような、微妙な数値を指している。

「ある! 絶対あるよ!」

 が樋口を見上げた。

「おう、ある。」

 小さく笑いながら、樋口が頷いた。

「やった〜!」

 大きく飛び跳ねる二人。

 練習終了後だと言うのに、この元気は何だろう。

 藤真は苦笑った。

「嬉しいだろうが、もう遅い。 早く帰らないと、家の人が心配するんじゃないか?」

 よほど、身長を気にしているのだろう。

 無邪気にはしゃぐ二人は、やっぱりまだ子供だった。



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