ホームに下りる。 樋口は、大きく深呼吸した。 「はぁ〜! 大阪の匂いや!」 思いっきり伸びをして、全身に痛みが走った。 「アイタタタ…」 「大丈夫?」 背後からの声に、笑顔を見せる。 「大丈夫やて。 心配いらん。 ちゃんこそ、大丈夫なん?」 「めちゃくちゃ痛い…」 その答えに、顔を見合わせて思わず笑ってしまった。 長野で三泊四日の合宿を終えたのが、昨日。 そして、二人は今、大阪へやって来ている。 激しい筋肉痛を伴って。 「ボス、ホンマ鬼や。 アレ、絶対オレ等の才能を妬んでる。」 最終日。 二人に課せられた練習は。 1 on 1 。 しかも、藤真自身との。 大人げもなく、一切手加減なしの藤真を抜くのは中々至難の業で。 一本取るのに、4時間弱かかった。 当然だろう。 藤真と言えば、県内でも注目度の高い選手で有名である。 インターハイでも名を馳せている、海南大付属バスケ部の監督が、欲しがっている選手なのだ。 一本取っただけでも、上出来だろう。 筋肉痛の主なる原因は、それ以外に考えられない。 「おお、アレやアレ。」 聞き覚えのある、懐かしい声。 耳がダンボのように、大きくなる。 樋口は元気よく振り返った。 「南ちゃん! 岸もっちゃん!」 「よぉ。 元気か?」 「もちろんや! 二人に久しぶりに会えるのに、元気やない訳ないわ!」 樋口の頭を撫でる、大きな手。 一人の少年が、に気付いた。 「電話で言うてたん、アレか?」 言われてがいる事を思い出したのだろう。 樋口が頷く。 「ん、ちゃん言うねん。 めんこいやろ?」 じっと少女を見つめる。 「小さいな〜。 ほんまにバスケ出来るんか?」 一人が、に合わせて屈む。 「南 烈や。 お前は?」 「 。 139.4cmです!」 も樋口も、少しずつ背が伸びている。 にっこり笑って元気に言うに、思わず笑ってしまう。 「なるほど、めんこいなぁ。 でも、犯罪ちゃうか?」 「岸もっちゃんやったら犯罪やけど、オレならお似合いやろ?」 「何で俺と比べるんや。」 岸本がべしっと樋口の頭を叩いた。 はきょとんとした様子で、それを見ている。 「ココは笑うとこや!」 岸本の声に、南が首を振る。 「何も面白くないで。」 「面白くないのもそやけど、ちゃんかなりぽや〜っとしてんねん。」 樋口が小さく頷いた。 南が樋口を見る。 「いつまで大阪におる?」 「明後日の朝9時の新幹線や。」 「そか。」 ちらっと、時計を見る。 丁度、お昼の時間帯。 南はに視線を移した。 「お好み焼き好きか?」 「はい!」 元気な返事に、小さく頷く。 「じゃ、炎の家寄って、荷物置いたら、飯食いに行こか。」 岸本がに声をかける。 「荷物持ってやろか?」 「あかん! オレがやるんや!」 岸本より先に、のバッグを奪った。 「自分で持つよ。」 少し困ったような。 「ええねん、ちゃんはこっち。」 と、自分の手を差し出した。 そんな二人の様子を見ながら、南が首を竦めて細く笑った。 「ガキが。 色気付きよって…。」 三月以来会っていなかった元気な後輩は、二人の知らないところで少し成長していた。 |