賭け



 正式に入部届を提出したのは、男女合わせて9人だった。

 男子5人、女子が4人。

 その中には当然、樋口と翠、の姿があった。

 泉沢は男女合同で練習をする。

 コーチが一人しかいないため、バスケ部は男子以外期待されていないためだった。

ダムダムダム。―――

 規則的な音が聞こえる。

 体育館の隅で、樋口は額に青筋を浮かべていた。

「…健ちゃんのバカ。」

 翠も同様、何かいじけたようにぼそっと呟く。

ダムダムダム。―――

 他の一年生は静かだった。

「…くそったれ、何で今更こんなんせなあかんのや?」

 樋口の呟きに、翠が便乗する。

「…チビはともかく、何で翠まで〜。」

ダムダムダム。―――

「…ボール壊すなや、男女。」

「…そんなもんか、ヘッピリ腰。」

 見えない火花が散った。

ダムダムダムダムダムダム。―――

 いっそう大きくなったドリブルの音に、藤真は驚いて視線を投げた。

 体育館の隅で、ドリブルの練習をさせているはずの一年。

「はん! どや、このボール裁き! マネ出来へんやろ!」

「どこが!? 亀より遅いじゃん!」

 騒ぎの中心の二人を見て、藤真はわなわなと肩を振るわせた。

「試合で俺が勝ったからって、突っ掛かんなや! 負け犬!」

「アレで勝ったとか思ってんの!? 1 on 1 は翠の勝ちだもん!」

 2人は腰を浮かせて立ち上がった。

「上等! 勝負や!」

「けっちょんけっちょんに、してやる!」

 取っ組み合いの喧嘩が始まろうとしたその時。

「いい加減にしろ!」

 藤真が2人に目掛けてボールを投げた。

「「どっひゃあ〜!!」」

 2人はそれぞれ、危なくボールを交わした。

「危ないやないか! ルーキーを狙うのは反則や!」

「危ないじゃん! 健ちゃんのバカ!」

 同時にそう言って、恨めしそうに藤真を睨み上げる。

「うるさい! こんな時だけ仲良く声を揃えるな!」

 藤真は頭を抱えた。

「お前等は5分も大人しくしていられないのか!」

 苦労性のキャプテンを見て、大祐と黛が苦笑う。

「もういい…。 一年も一緒に、フットワークの練習だ。」

 溜息を吐きながら、練習に戻る。

 翠と樋口は、互いに舌を出して威嚇しあっていた。

! こっちに来い。」

 呼ばれた本人より先に、二人が反応した。

「何や、ちゃんに何の用や?」

「何さ、だけ特別レッスン?」

 ほとんど同時に言った二人に、大祐が苦笑う。

「お前ら、仲いいんじゃねえの?」

 首を傾げながら、は言われたとおりにする。

 じぃっと見上げる大きな瞳、藤真は小さく息を吐いた。

(………小さいな。)

 何度目かわからないが、を見る度にそう思う。

 134 cm 。

 初日に新入部員全員の身長を聞いた時に、はそう答えた。

 その身長で、バスケが出来るのだろうか?

「? あのぉ…?」

 何も言わない藤真に、少女が首を傾げる。

 藤真は我に返って小さく咳払いをした。

「練習が終わったら、少し残ってくれ。 それだけだ。」

「はい。」

 にっこりと笑った少女。

 本心から思う。

 もう少し、背が高かったら。

 きっといい選手になるだろうに。

 しかし、悔いている場合ではない。

 女子は、この少女にかけるしかないのだ。



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