N . N



新横浜駅。

 新幹線を降りた頃にはすっかり日も暮れ。

 家に帰るため、二人は各駅電車に揺られていた。

「何や、アイツ?」

 突然、樋口が眉を寄せた。

「どうしたの??」

 が少し眠たいのか、目を擦りながら首を傾げる。

「さっきから、ちらちらオレ等の事見てるんや。」

 樋口の視線の先には、背の高い、20代半ば程の女性。

(………どこかで見た事ある…?)

 が首を傾げながら、じーっと見ていると、女性は意を決したように大きく頷いて、二人の方へやって来た。

「はじめまして。」

 元気な、よく通る声。

 二人はきょとんとして女性を見上げていた。

「はじめまして。」

 しばらくして、がにこりと笑う。

ちゃん、あかんで。 こう言う普通っぽいのが、一番怖いんや。 誘拐されるかも…」

 にそう言い聞かせる樋口に、女性は困ったように首を振った。

「アタシは怪しくないわよ。 樋口君。」

 名前を呼ばれて、樋口が不審そうに目を細める。

「アタシね、こう言う者。」

 と、それぞれに名刺を渡した。

『 ××社 週刊バスケットボール 成瀬奈緒美 』

 どこかで見た気が…。

「N.N か!」

 樋口が手を打った。

「アタシのペンネームね。」

 女性記者、成瀬奈緒美(ナルセ ナオミ)は、笑顔で続ける。

「二人とも泉沢の 12 番よね? こんな所で会えるなんてついてるわ。」

 成瀬は大きめの鞄から、慣れた手付きでメモノート張を取り出した。

「本当は試合直後に話が聞きたかったんだけど、優勝校を差し置いてインタビューすると、上司に怒られるのよ。」

 既に仕事モードとも言うべきだろうか。

 成瀬はにこにこしながら、話し続けている。

「何から聞こうかしら〜? 二人とも可愛いわねぇ♪」

 何か思いついたのか。

 樋口が細く笑った。

「なぁー、なっちゃん。」

「はーい、何かしら?」

 樋口の目線に合わせるように屈む。

「オレ等もうすぐ降りるんや。 駅のホームで立ち話も何やし、どっか店に行かん?」



back