前触れ



「ほ〜ぅ。」

 樋口が口元だけでにやりと笑った。

「オレがおらん時にそんな事があったのか。 災難やったなぁ。」

「ホンットに痛かったのよ。 目の前にお星様が見えたわ。」

 確かに。

 一日だけならと、藤真は折れた。

 しかし。

(次の日に来るヤツがあるか…)

 2〜3日動けそうになかったのではないだろうか?

 フラッシュの光とシャッターの音が、邪魔になる。

 成瀬は藤真との約束どおり、光も音も出さない、ビデオカメラを持参でやって来た。

じぃ〜。

 視線を感じて振り返る。

「練習風景を撮りたかったんじゃないんですか。」

「ちょっとくらい撮らせなさいよ。」

 たまに樋口と話していると疲れる事があるが。

 成瀬は、藤真を疲れさせる天才かもしれない。

「そう言えば、昨日どこに行ってたの?」

 が首を傾げる。

「病院や。」

 樋口が答えた。

 藤真がわずかに眉を寄せる。

「どこか悪いのか、樋口?」

 樋口はゆっくり、藤真に視線を移した。

「別に。」

 何か言いかけた藤真に、首を振る。

「練習始めようか。」

 そこで話を切られて、藤真はそれ以上何も聞けなかった。

 そして、数日後。

 樋口は学校を休んだ。

 10月の、最初の週だった。



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