台風 2



 あのまま練習に熱中してしまい、台風が上陸した事に気付かなかった。

「…ふぅ。」

 やっとの事で家に辿り着き、藤真が息を吐いた。

「大丈夫か?」

 視線を落とすと、が頷いた。

「はい。 ずっと手、繋いでてくれて、ありがと………っくしゅんっ!」

 大型台風だと聞いてはいたが。

「少し、甘く見てたな。」

 藤真が首をすくめた。

 風が強くて、小さいが飛ばされるんじゃないかと思った。

 最初は差していた傘も、3分も立たない内にダメになった。

 の方が家が遠いので、家に連絡させて、今日は自分の家に泊める事にした。

「ほら、タオル。」

 先に上がって、にタオルを渡す。

「先にシャワーを使え。 風邪を引く。」

「でも…」

「いいから。 バスタオルと一緒に、着替えも置いておく。」

 何か言おうとして、もう一度大きなクシャミ。

「…借ります。」

 藤真はタオルで身体を拭きながら、部屋の電気を点けた。

(帰ってないか。)

 家に一人でいる事は多い。

 両親は共に洋服ブランドの社長。

 今、父親は海外出張中であり、母親は国内にいるものの、子供服のデザイナーとして忙しい毎日を送っている。

 電話機の、伝言メモを再生してみた。

『もしもし、健司? ママでーす。 今日帰れそうにないので、会社に泊まります。 夕飯は、出前でも取って、適当に食べてね。』

 母親からだった。

 テレビをつけた。

 どのテレビ局も、台風速報ばかりである。

(出前… 家まで来れるのか?)

 雨風が、激しく打ち付けている。

「っくしゅん!」

 雨に打たれて、体が冷えている。

 しばらくテレビを見ていたら、リビングのドアが開いた。

「お先に失礼しました。」

「ちゃんと温まったのか?」

 藤真の声に、小さく頷く。

「先輩、家の人は?」

 首を傾げるに、藤真が小さく首を振る。

「帰れないって連絡があった。 夕飯は、出前でも取れって言ってたけど…」

「…出前、来れますかね?」

 台風は勢力を弱める事なく、家の中にいても物凄い雨音が響いている。

「さぁ、どうだろう。」

 藤真はソファから腰を上げた。

と。

「ちゃんと拭いてないだろ。 髪がびしょびしょじゃないか。」

 肩に掛けたままのバスタオルで、の髪を拭いてやった。

 妹がいたら、こんな感じなのかと、ふと思った。



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