リビングのドアを開けると、いい匂いが鼻をくすぐった。 「あ、先輩。」 が振り返った。 「ごめんなさい、台所借りてます。」 藤真は目をぱちくりさせた。 「いや、それは構わないが…」 「冷蔵庫の中のも、借りてます。」 の声に、頷く。 「あと、漫画雑誌も借りてます。」 と、自分の足元を指した。 読み終えて重ねてあった、少年ジャンプ。 いくつか重ねて、台にしているらしい。 藤真は小さく笑った。 「ああ、構わないよ。」 藤真がそう言うと、はにこりと笑って、ちょこまか動き出した。 練習中も、いつも、ちょこまか動いている。 藤真は小さく笑った。 あまり、思ったことはないが。 (可愛いな。) 慣れない台所で、慣れた手付きで何か作っている。 素直で元気で明るくて。 何事にも一生懸命なのが、人を引き付ける魅力なのかもしれない。 「!」 一口、口に運んで、藤真はわずかに驚いた。 「驚いたな。 料理出来るのか。」 が首を竦める。 「ただの煮込みうどんですよ。」 「いや、美味しいよ。」 冷蔵庫のあまり物を使って、3品のおかずも作っている。 「よかった。 口に合ったみたいで。」 藤真はじぃっとを見据えた。 「は意外に器用だな。 俺も見習わないと。」 心から、感心する。 は、まだ中学一年生なのだ。 「「ご馳走さまでした。」」 後片付けをしようと、流しに入るを追いかける。 「片付けは俺がやるよ。」 蛇口をひねろうとしたその時。 一瞬で、部屋が真っ暗になった。 「停電…?」 いきなり明かりが消えた事で驚いたのだろう。 「きゃ…」 重ねた週刊誌の上で、がバランスを崩した。 「!」 藤真の声が、聞こえた。 |