台風 3



 リビングのドアを開けると、いい匂いが鼻をくすぐった。

「あ、先輩。」

 が振り返った。

「ごめんなさい、台所借りてます。」

 藤真は目をぱちくりさせた。

「いや、それは構わないが…」

「冷蔵庫の中のも、借りてます。」

 の声に、頷く。

「あと、漫画雑誌も借りてます。」

 と、自分の足元を指した。

 読み終えて重ねてあった、少年ジャンプ。

 いくつか重ねて、台にしているらしい。

 藤真は小さく笑った。

「ああ、構わないよ。」

 藤真がそう言うと、はにこりと笑って、ちょこまか動き出した。

 練習中も、いつも、ちょこまか動いている。

 藤真は小さく笑った。

 あまり、思ったことはないが。

(可愛いな。)

 慣れない台所で、慣れた手付きで何か作っている。

 素直で元気で明るくて。

 何事にも一生懸命なのが、人を引き付ける魅力なのかもしれない。





「!」

 一口、口に運んで、藤真はわずかに驚いた。

「驚いたな。 料理出来るのか。」

 が首を竦める。

「ただの煮込みうどんですよ。」

「いや、美味しいよ。」

 冷蔵庫のあまり物を使って、3品のおかずも作っている。

「よかった。 口に合ったみたいで。」

 藤真はじぃっとを見据えた。

は意外に器用だな。 俺も見習わないと。」

 心から、感心する。

 は、まだ中学一年生なのだ。

「「ご馳走さまでした。」」

 後片付けをしようと、流しに入るを追いかける。

「片付けは俺がやるよ。」

 蛇口をひねろうとしたその時。

 一瞬で、部屋が真っ暗になった。

「停電…?」

 いきなり明かりが消えた事で驚いたのだろう。

「きゃ…」

 重ねた週刊誌の上で、がバランスを崩した。

!」

 藤真の声が、聞こえた。



back