ママ 2



 おかゆを食べて薬を飲んで一眠りすると、大分楽になった。

 藤真が着替えてリビングに下りた時、時刻はお昼の12時を少し過ぎていた。

「あら? 具合はどう?」

 母親が藤真に気付いて、声をかける。

「ああ、大丈………」

 藤真は言葉を飲み込んだ。

「それは良かったわ。」

 にっこり笑って、母親は指を鳴らした。

「やっちゃって。」

 その合図と同時に、大人達が藤真を取り囲んだ。

 藤真の母親は子供服のデザイナー。

 藤真はこうやって子供の頃から、半ば強引にモデルをやらされていた。

 大分慣れたこの状況に驚いた訳ではない。

 そこにがいたから、言葉を飲み込んだのだ。





「なるほど…」

 子供服の新作が出来上がったのはいいが、今までのモデルが大きくなってしまって、悩んでいたらしい。

「一目見て、ちゃんなら! と思ったのよ。」

「で、何で俺まで?」

「海外でも売り出すつもりの新作ブランドなの。 モデルも素人がいいでしょう。 広告のコンセプトは"仲のいい兄妹"。」

 母親が健司の背を叩いた。

「ブランド名は "Clover"。 アンタがちゃんとリードするのよ。 ちゃん、モデル経験ないんだから。」

 家から車でスタジオに移動した。

 先に準備を終えたから、撮影を始めている。

 ライトを浴びても、いつものような笑顔で大人たちに答えている。

(…本当にしっかりした子だ。)

 じぃっと、を見つめていると。

 その視線に気付いたのか、がこっちを見た。

 目が合うと、花のように笑う。

「ほーんと、健司がメンクイで助かったわ。」

 の笑顔に答えるように、母親が手を振った。

「健司?」

 揶揄に対しての反応がなかったので、母は首を傾げて藤真を見つめた。

 その声すら耳に届いていないのか、藤真は何も言わず、フラッシュを浴びるを見ていた。

(…ふ〜ん。)

 母親は、口元だけで細く笑った。

(あとで、からかってやろうかしら。)

 そんな事を思いながら。



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