おかゆを食べて薬を飲んで一眠りすると、大分楽になった。 藤真が着替えてリビングに下りた時、時刻はお昼の12時を少し過ぎていた。 「あら? 具合はどう?」 母親が藤真に気付いて、声をかける。 「ああ、大丈………」 藤真は言葉を飲み込んだ。 「それは良かったわ。」 にっこり笑って、母親は指を鳴らした。 「やっちゃって。」 その合図と同時に、大人達が藤真を取り囲んだ。 藤真の母親は子供服のデザイナー。 藤真はこうやって子供の頃から、半ば強引にモデルをやらされていた。 大分慣れたこの状況に驚いた訳ではない。 そこにがいたから、言葉を飲み込んだのだ。 「なるほど…」 子供服の新作が出来上がったのはいいが、今までのモデルが大きくなってしまって、悩んでいたらしい。 「一目見て、ちゃんなら! と思ったのよ。」 「で、何で俺まで?」 「海外でも売り出すつもりの新作ブランドなの。 モデルも素人がいいでしょう。 広告のコンセプトは"仲のいい兄妹"。」 母親が健司の背を叩いた。 「ブランド名は "Clover"。 アンタがちゃんとリードするのよ。 ちゃん、モデル経験ないんだから。」 家から車でスタジオに移動した。 先に準備を終えたから、撮影を始めている。 ライトを浴びても、いつものような笑顔で大人たちに答えている。 (…本当にしっかりした子だ。) じぃっと、を見つめていると。 その視線に気付いたのか、がこっちを見た。 目が合うと、花のように笑う。 「ほーんと、健司がメンクイで助かったわ。」 の笑顔に答えるように、母親が手を振った。 「健司?」 揶揄に対しての反応がなかったので、母は首を傾げて藤真を見つめた。 その声すら耳に届いていないのか、藤真は何も言わず、フラッシュを浴びるを見ていた。 (…ふ〜ん。) 母親は、口元だけで細く笑った。 (あとで、からかってやろうかしら。) そんな事を思いながら。 |