ママ 3



「ありがとう、ちゃん! 本当に助かったわ。」

 無事に撮影が終わり、藤真ママはご機嫌だ。

「いえ、私こそ。 いっぱいお洋服頂いちゃって…」

 藤真ママ的には、立派なビジネス。

 モデルとして雇ったのだから、その分のお金を払うと言ったのに、は断固受け取らなかった。

 それならば、せめて。

 と言う事で、これまでデザインした中で、未発表の服をに貰ってもらったのだ。

「また遊びにいらっしゃい。 美味しいケーキでも用意して待ってるわ。」

 が余程気に入ったのだろう。

 藤真ママは終始にこにこしていた。

「はい。 送って頂いてありがとうございました。」

 車を降りて、めいっぱい頭を下げる。

「迷惑かけたな、。 じゃ、また明日。」

 窓を開けてそう言う藤真に、はぷぅと小さく頬を膨らませた。

「昨日は""って呼んでくれたのに、今日は""なんですか?」

 真剣な表情でそんな事を言うから、藤真は小さく吹き出してしまった。

 まったく、どこまで素直なのだろう。

「また明日。 ちゃん。」

 車が走り出す。

 サイドミラーに映し出されたの姿は、段々小さくなり、やがて見えなくなった。

「いい子ね、ちゃん。」

「ああ。」

 車を運転しながら、母親が続ける。

「好き?」

 いきなりそんな事を聞くから、藤真は少し咽た。

「…だから、そんなんじゃ…」

 一緒に寝るまでに至る過程も全て話したのに、まだそんな事を言うのかと、少し呆れたような声。

「自覚がないなら気を付けなさい。 あの子が笑ったとき、アンタも嬉しそうな顔してるわよ。」

 母の言葉に、藤真は言葉を飲み込んだ。

「アンタ、女の子にはどこか冷たいのに、ちゃんには優しいのね。」

「そんな事…」

「ある。」

 藤真の言葉をきっぱり遮って、母は続けた。

「健司にとっては、初恋かな? いや〜ん、甘酸っぱいーっ!」

 からかうような声に、ぷいっとそっぽ向く。

「認めないならそれでもいいけど、誰かに取られて気付いたら、それこそただのバカよ。」

 母親は続ける。

「恋は勝気で行かなきゃね。 気づいた途端に失恋なんて、そんなダサイヤツなんかにならないでよね。」

 藤真にウィンクする。

 窓の外、流れる景色をぼーっと眺めていた。

 どんなに無理をさせても、はいつも笑顔で答えている。

 確かに。

 可愛いと思った。

 守ってやりたいとも思った。

 ただ。

 今まで恋なんてした事のない藤真には、その気持ちがなんなのかわからなかった。



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