「ありがとう、ちゃん! 本当に助かったわ。」 無事に撮影が終わり、藤真ママはご機嫌だ。 「いえ、私こそ。 いっぱいお洋服頂いちゃって…」 藤真ママ的には、立派なビジネス。 モデルとして雇ったのだから、その分のお金を払うと言ったのに、は断固受け取らなかった。 それならば、せめて。 と言う事で、これまでデザインした中で、未発表の服をに貰ってもらったのだ。 「また遊びにいらっしゃい。 美味しいケーキでも用意して待ってるわ。」 が余程気に入ったのだろう。 藤真ママは終始にこにこしていた。 「はい。 送って頂いてありがとうございました。」 車を降りて、めいっぱい頭を下げる。 「迷惑かけたな、。 じゃ、また明日。」 窓を開けてそう言う藤真に、はぷぅと小さく頬を膨らませた。 「昨日は""って呼んでくれたのに、今日は""なんですか?」 真剣な表情でそんな事を言うから、藤真は小さく吹き出してしまった。 まったく、どこまで素直なのだろう。 「また明日。 ちゃん。」 車が走り出す。 サイドミラーに映し出されたの姿は、段々小さくなり、やがて見えなくなった。 「いい子ね、ちゃん。」 「ああ。」 車を運転しながら、母親が続ける。 「好き?」 いきなりそんな事を聞くから、藤真は少し咽た。 「…だから、そんなんじゃ…」 一緒に寝るまでに至る過程も全て話したのに、まだそんな事を言うのかと、少し呆れたような声。 「自覚がないなら気を付けなさい。 あの子が笑ったとき、アンタも嬉しそうな顔してるわよ。」 母の言葉に、藤真は言葉を飲み込んだ。 「アンタ、女の子にはどこか冷たいのに、ちゃんには優しいのね。」 「そんな事…」 「ある。」 藤真の言葉をきっぱり遮って、母は続けた。 「健司にとっては、初恋かな? いや〜ん、甘酸っぱいーっ!」 からかうような声に、ぷいっとそっぽ向く。 「認めないならそれでもいいけど、誰かに取られて気付いたら、それこそただのバカよ。」 母親は続ける。 「恋は勝気で行かなきゃね。 気づいた途端に失恋なんて、そんなダサイヤツなんかにならないでよね。」 藤真にウィンクする。 窓の外、流れる景色をぼーっと眺めていた。 どんなに無理をさせても、はいつも笑顔で答えている。 確かに。 可愛いと思った。 守ってやりたいとも思った。 ただ。 今まで恋なんてした事のない藤真には、その気持ちがなんなのかわからなかった。 |