ママ



ぱちっ☆

「うわっ…!」

ゴン☆

 何か視線を感じて目を開けると。

 嫌と言うほどよく知った顔、母親が目の前にいた。

 驚いて飛び起きた時、勢い余って壁に頭をぶつけてしまった。

 その時の音で、が目を覚ます。

「おはようございます、ボス。 朝から元気ですね。」

 目を擦りながら、こんな事を言うから。

 藤真は頭を押さえたまま黙るしかなく、その様子に、母親は大きく笑い出した。

「あはは! 面白い子ね。」

 その声でやっと存在に気付いたのだろう。

 が振り返った。

(お!)

 目が合って、藤真の母は一瞬言葉を飲み込む。

「1年4組 です! はじめまして。」

「はじめまして、ちゃん。 健司のママです。」

 にっこり笑うにつられて、笑顔で母が言った。

「何で俺の部屋にいるんだ! 帰れないって、言ってたじゃないか!」

 和みムードの二人に、藤真が割って入る。

「明け方に帰って来たのよ。 家の事が心配でね。 でも…」

 ちらっと、を見る。

「健司が女の子を連れ込むなんて心配は、全然してなかったわ。」

「ただの部活の後輩だ!」

「そう。 ぎゅっと抱き締めながら同じベッドで一晩過ごしちゃう様な、ただの部活の後輩ねv」

 声を上げる藤真に対して、藤真ママはどこか楽しそうだ。

「顔赤いわよ、健司?」

「だから、そんなんじゃ…」

 揶揄る様な母親に半ばうんざりしながら、藤真が首を振る。

すっと。

 の小さな手が、藤真の額に触れた。

ドキ…っ。−−−−−

「…オデコ、熱いですよ? 先輩。」

 の声に、母親が溜息混じりに立ち上がる。

「雨に濡れて身体を冷やしたのね。 まったく、やっぱり帰ってきて良かったわ。」

 引き出しを探す。

「何か作って薬と一緒に持って来るから、先に体温測って、着替えてなさい。」

 体温計を手渡して、に手招きをする。

「こっちにいらっしゃい、ちゃん。 うつるといけないわ。」

 はコクンと頷いて、藤真のベッドから抜け出した。

 熱のせいだろうか?

 心臓の音が、聞こえる。



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