時間



「腰が高い!! もっと、膝を使え!!」

「はいっ!」

 体育館に響く、音。

「樋口! お前もだ! 下半身がさぼってるぞ!」

「わかっとるわ!」

 練習終了後に、二人の一年を残した藤真は、個人練習を始めた。

「…何か、健ちゃん怖い。」

 隅でシュートの練習をしていた翠が、呟いた。

 その声に、大祐と真琴も頷く。

 藤真が、個人練習を始めて早四日が過ぎた。

 一年の女の子。

 体力的にも、精神的にも、この練習量は苦痛である。

 藤真の練習は、容赦なかった。

 練習中には、決して見せない顔。

 を一人残そうとして、樋口が自ら残ると申し出た。

 おそらく、この光景を思い浮かべたのだろう。

「よし、止め! 五分休憩して、シュートの練習を始める!」

 休憩の声と共に、二人はその場に倒れるように寝転んだ。

「………鬼や。」

 辛うじて、樋口が一言呟いた。

「ゴメンね、樋口くん。 残しちゃって…」

 の声に首を振る。

「二人っきりになんか出来んわ、イヤらしい…」

 悪戯に笑う樋口に、藤真が眉を寄せた。

「…ドリンク、いらないみたいだな。」

「堪忍してや…」

 樋口が首を竦める。

 藤真はに視線を移した。

 小さな身体は、肩で息をしている。

 わかっている。

 どれだけ無茶な事をしているか。

 正直、よくが四日も続いていると思う。

 何と思われても、構わない。

 夏の大会、予選はもうじき始まるのだ。

 それまで、バスケ未経験のを、人並みに育てなければ。

 女子部は、今年の大会で一勝も上げられなければ、廃部が決まっていた。

 昔、公園で。

 そして、入部体験時、試合で見せたレイアップ・シュート。

 この少女なら、夢を見せてくれるかもしれない。

 ただ、時間がないのだ。

 無理をさせてでも、身体に叩き込む他ない。

 もう少しだけ、時間があれば…。

 これ程までに、無理をさせる事もなかったのに。

 悔いても仕方がない。

 が入部して、予選第一試合まで、一月もないのだ。



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