小指



「11月か〜。 日が暮れるのが早いはずや。」

 いつもの部活の帰り道。

 街灯に二つの影が伸びる。

「もうすぐ、トーナメント始まるなぁ。 男子も女子も、頑張らんと!」

 樋口が隣を歩くに、同意を求めるように言う。

 は、何か考えている様子で、少し不安そうに樋口を見上げた。

「ん? どうしたんや? しんどい?? 鞄持ってやろか?」

 にこりと微笑んで、手を差し出すと。

 が、ぎゅっと、樋口の小指を握った。

「!」

 少し驚いたように、樋口が目を丸くする。

「…痛い?」

 の声に、少しどきっとする。

「いや…」

 樋口は首を振った。

 は、それでも不安そうに樋口を見上げていた。

 が何故、こんな事をするのか。

 心当たりが何もない訳ではないので、黙る事しか出来ない。

「…いつからか、聞いてもいい?」

 の声に、小さく息を吐いた。

「いつから気付いたのか、聞いてもええか?」

 は、少し考えて答えた。

「………最初に、手、つないだ時。 その時は、突き指してるのかなって思っただけだけど。」

 樋口は、ぽりぽりと頭を掻いた。

 じぃっと見上げる色違いの瞳。

 まっすぐな瞳に、変な罪悪感さえ覚える。

「…10才になる前からや。 動かん訳やないけど、たまに痺れてる感じがあんねん。」

 と、左手の小指を少し動かす。

 いきなりと言えばいきなりだった。

 左手の小指に痺れを感じ始めて。

 ひどい時は、上手く動かない。

 樋口はわずかに目を伏せた。

 誰も気付かないだろうと思っていた。

 日常生活にほとんど支障もないし、気付かれたくないのもあって、上手く隠して来たつもりだった。

「よく見てるなぁ。 敵わんわ。」

 首を竦める。

 今度は、樋口がを見据えた。

 右手を伸ばし、の顔… 目元に触れる。

「…オレも、聞いてもええか?」

 が頷くのも待たずに、続けた。

「最後に、泣いたのいつや?」

 一瞬、緑色の瞳が揺らいだように見えた。



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