笑顔



「おはよう、健司!」

 ぼーっとしながら歩いていると、声をかけられた。

「あ、おはよう…」

 真琴が首を傾げた。

「どうしたの? ぼーっとして。」

 顔を覗き込まれて、藤真は少し焦ったように距離を取った。

「おはよーさん!」

「おはようございます!」

 タイミングの良い、元気な挨拶。

 真琴が振り返った。

「おはよう。 二人とも、いつも一緒で本当に仲がいいわね。」

 笑顔でそう言う真琴に、二人も笑顔で答える。

「オレ等仲ええねんもんなー☆」

「ねー☆」

 顔を見合わせて笑う二人。

 ふと。

 が首を傾げた。

「? おはようございます、ボス。」

 の声で我に返ったように、藤真が二人に気づいた。

「歩きながら、寝とった?」

 樋口の小言をさらりと流して、藤真がを見つめる。

「ああ… おはよう。」

 普通に挨拶を返しただけなのに。

 は、それだけで笑ってくれる。

 樋口がつまらなそうに眉を寄せた。

「姫!」

 に声をかける。

「教室まで競争や! よーい…」

「「どん!!」」

 朝から元気な二人に、真琴が小さく笑った。

「じゃ、健司。 またお昼休みにね。」

「ああ。」

 藤真は小さく息を吐いた。

 の笑顔が、まだ目に焼きついている。

(…何なんだ………)

 この気持ちが何のか。

 わからなかった。



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