幼なじみ 2


 台風の日に、はじめてが可愛いと思った。

 はじめて、いつも元気に頑張る少女が、小さく弱い存在である事に気付いた。

 はじめて、守りたいと思った。

 ただ、その感情が何なのか。

 それはわからない。

 数日後、と樋口の関係に、微妙な変化があった。

 互いの呼び名が変わり、何かと樋口につっかかれる事が多くなった。

 そんな矢先。

 翠と真琴の話を偶然聞いてしまった。

 自分の気持ちを、どうにか整理しようとしていた時に。

 樋口に啖呵を切られた。

『…は渡さん。 死んでも、お前にはやらん! 絶対や!』





 一通り話を聞いて、大祐が苦笑した。

 知ってはいたが。

(…すごいな、樋口。)

 思わず感心してしまう。

 2つも年上の、部活のキャプテンに向って何て口を利くのだろう。

(まぁ、はっきりしてるし、俺は好きだけどな。)

 ちらっと藤真を見ると。

 少し複雑そうな空気を纏って俯いていた。

「…悪い。」

「何が?」

 突然謝られて、大祐が首を傾げる。

「…真琴の事。 お前に言うべきじゃなかった。」

 大祐が真琴に片思いしているのは、気付いていた。

 三人は、幼稚園からの幼なじみなのだ。

「気にすんなよ。 俺も何となく気付いてた。」

 と。

 ぐわしゃぐわしゃと、力いっぱい藤真の髪を撫でる。

「何だよ?」

 少し眉を寄せて、藤真は大祐の手を振り払った。

「わはは。 変な頭。」

 かき回されて、変な癖が付いている。

 少し笑った後、首を振った。

「俺の気持ちには気付けて、何で自分の気持ちに気付かないかね、お前は。」

「え?」

 その呟きは、風の音に交じって藤真の耳には届かなかった。

「何でもねえ。」

 そう言って大祐は、両手を思い切り広げて、そのままバチンと藤真の頬を両手で挟んだ。

 音に比べて、痛みは痛みは全くない。

 不審そうに眉を寄せる藤真に、にかっと笑う。

「しっかりしろよ、キャプテン。」

 パチパチと、数回頬を叩く。

「今のお前に、一番大事な事は何だ?」

 いきなり真面目な表情で見据えられ、藤真は一瞬考えた。

「…優勝だ。」

 静かに、しかし力強い声で答える。

「そうだ。 色んな事考え過ぎてると、一番大事な物がダメになるぞ。」

 励まされているような、導かれているような、そんな関係。

「…お前がいてくれてよかったよ。 ありがとう。」

 風が吹いた。

 頬を撫でるそれは、少し冷たい。

 冬の大会。

 藤真にとっては、中学最後の大会が始まる。



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