台風の日に、はじめてが可愛いと思った。
はじめて、いつも元気に頑張る少女が、小さく弱い存在である事に気付いた。 はじめて、守りたいと思った。 ただ、その感情が何なのか。 それはわからない。 数日後、と樋口の関係に、微妙な変化があった。 互いの呼び名が変わり、何かと樋口につっかかれる事が多くなった。 そんな矢先。 翠と真琴の話を偶然聞いてしまった。 自分の気持ちを、どうにか整理しようとしていた時に。 樋口に啖呵を切られた。 『…は渡さん。 死んでも、お前にはやらん! 絶対や!』 一通り話を聞いて、大祐が苦笑した。 知ってはいたが。 (…すごいな、樋口。) 思わず感心してしまう。 2つも年上の、部活のキャプテンに向って何て口を利くのだろう。 (まぁ、はっきりしてるし、俺は好きだけどな。) ちらっと藤真を見ると。 少し複雑そうな空気を纏って俯いていた。 「…悪い。」 「何が?」 突然謝られて、大祐が首を傾げる。 「…真琴の事。 お前に言うべきじゃなかった。」 大祐が真琴に片思いしているのは、気付いていた。 三人は、幼稚園からの幼なじみなのだ。 「気にすんなよ。 俺も何となく気付いてた。」 と。 ぐわしゃぐわしゃと、力いっぱい藤真の髪を撫でる。 「何だよ?」 少し眉を寄せて、藤真は大祐の手を振り払った。 「わはは。 変な頭。」 かき回されて、変な癖が付いている。 少し笑った後、首を振った。 「俺の気持ちには気付けて、何で自分の気持ちに気付かないかね、お前は。」 「え?」 その呟きは、風の音に交じって藤真の耳には届かなかった。 「何でもねえ。」 そう言って大祐は、両手を思い切り広げて、そのままバチンと藤真の頬を両手で挟んだ。 音に比べて、痛みは痛みは全くない。 不審そうに眉を寄せる藤真に、にかっと笑う。 「しっかりしろよ、キャプテン。」 パチパチと、数回頬を叩く。 「今のお前に、一番大事な事は何だ?」 いきなり真面目な表情で見据えられ、藤真は一瞬考えた。 「…優勝だ。」 静かに、しかし力強い声で答える。 「そうだ。 色んな事考え過ぎてると、一番大事な物がダメになるぞ。」 励まされているような、導かれているような、そんな関係。 「…お前がいてくれてよかったよ。 ありがとう。」 風が吹いた。 頬を撫でるそれは、少し冷たい。 冬の大会。 藤真にとっては、中学最後の大会が始まる。 |