幼なじみ



「健司! け〜んじっ!」

 二つのダンボールを抱えてよろよろと歩く藤真から、そのうちの一つを大祐が取り上げた。

「何だ、この荷物? 意外に重いじゃねーか。」

 こんな物を二つも抱えている幼なじみに、不審そうな視線を投げる。

「自習になったから部室を片付けてたんだ。 卒業生の荷物やら、もう使えないボールも結構あったから…」

「一人でか?」

 大祐の言葉に、頷く。

(コイツ…)

 大祐は知っている。

 悩みがある時、藤真は自分の身の回りをキレイに整頓しながら、一人で考える癖があった。

 何か他の作業に気を向けていないと、考え詰めて落ち込んでしまうタイプなのだ。

(何で、一人で抱え込むかな〜…)

 変な所で強がってしまうのは、幼い頃から一人で過ごす時間が他の子供に比べて長かったせいだろう。

 人に甘える事を知らないのだ。

 1組が自習になったのは知っていた。

 一時間ほどだろうか。

(中学最後の大会前に、何を悩んでいるんだってんだ、コイツは…)

 そんな事を考えていると、溜息が漏れた。





 藤真の様子が最近おかしい事には気付いていた。

 原因が何かも、感付いていた。

 確認の意味で、大祐が口を利く。

「…で、とデキタって?」

ぶっ。

 飲んでいた缶コーヒー(カフェオレ)を、勢い良く吹き出した。

「ゲホっ… なっ…?」

 咽て少し涙目になりながら、藤真が何か言いたそうに大祐を見やる。

 場所は校舎の屋上・給水タンクの裏。

 部室に次いで、お決まりの溜まり場である。

 台風の日の一件は、藤真は誰にも何も言っていない。

 は、樋口や竜などには話していたみたいで、2〜3日からかわれたものだ。

「いや、おばさんがうちのお袋に話したみたいで、色々聞かれたんだよ。」

 藤真の脳裏に、おしゃべり好きな母親が高笑いしている姿が浮かんだ。

「………まったく。」

 大きく息を吐く。

 その様子に、大祐が首を竦める。

「女絡みの話なんて、今までなかっただろ。 しっかし…」

 苦虫を噛み潰したように、苦笑う。

な〜… メンクイな上に、ロリコンか?」

 あきらかに、からかっている。

「そんなんじゃない。」

 気に障ったのだろう。

 藤真が眉を寄せる。

「怒るな、冗談だ。 俺は少し嬉しいんだぜ?」

 不審そうに自分を見る藤真に、大祐が続ける。

「お前って、いっつもバスケばっかりで… そう言う話を聞くと、バスケ意外にも気が向いているんだなって、安心するんだよ。」

 そう言って照れくさそうに笑う大祐を見て、少し考えた。

 幼い頃から一緒にいるためだろう。

 お互いをよく知っているので、相談相手には申し分ない。

「…で、どうした? 全部話せなんて言ってないだろ?」

 にっこり笑ってそう言うから、少し、肩の荷が下りた。



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