手紙



 藤真達がそんな話をしているのと、ほぼ同時刻。

 樋口は、を屋上(へ続く階段)に呼び出していた。

「…コレ、読んだわ。」

 ポケットから、一通の手紙を取り出した。

 に見えるように少しだけ出して、またしまう。

「…スマン。」

 いきなり頭を下げた。

「ほんまは、言いたくなかったやろ?」

 いつも元気な樋口と同じ人物だと思えないほど、その声は沈んでいた。

 は小さく首を振った。

「私だけ、聞いたのもずるいから。」

 手紙は、から樋口宛て。

 がこっそり、樋口の鞄に入れた物だった。

「全部読んだんだ?」

 の言葉に、樋口が頷く。

「そっか。 びっくりしたでしょ?」

 いたずらっぽく、首を竦めて笑う。

 胸にトゲが刺さったような、痛みを感じた。

「あかん…」

 樋口は首を振る。

「何で笑えるんや? あかんで。 泣きたいのを、我慢するのはあかん。」

 じぃっと、を見つめる。

「涙は、心の傷を治すために流すんや。 ちゃんと泣くのも、人の強さやで。」

「ん………」

 樋口の言葉に、は少し困ったように首を竦めた。

「今すぐ泣けとは言わんけど、泣きたくなったら、ちゃんと泣かなあかん。」

 真剣な顔で、話を続けた。

「姫が泣きたい時は… オレが側におるから。」

 は少し驚いたように、目を丸くした。

 樋口は続ける。

「けど、思いっきり泣いたら、次の日は泣いたらあかん。 ちゃんと笑うんやで。」

 の小さな手を取って、強く握る。

 樋口は笑った。

「大好きやで、ちゃん。」

 自分が守らないと。

 改めてそう思わされた。

 が抱えている物。

 それは樋口が思っていた物よりも、ずっと重い物だった。



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