女子準決勝



ピィー。

 藤真と樋口、成瀬等が隣町の体育館に着いたと同時に、笛が鳴った。

 泉沢 vs 白海 。

 49 - 41 。

 スコアボードを見て、藤真が眉を寄せた。

「「「「「 ありがとうございました! 」」」」」

 試合終了。

 泉沢女子バスケ部は、決勝へ進む事が決まった。

「…変やな。」

 突然の声に、藤真は少し驚いて視線を落とした。

「白海相手や言うても、49点しか取れてない… 何でや?」

 藤真が疑問に思った点と同じ所に気付いた。

 成瀬が首を振る。

「準決勝よ。 思い通りに試合が進むなんて、思わない事ね。」

 成瀬は記者席に、足を進めた。

 藤真と樋口は、泉沢選手のいるベンチへ向う。

「あ。」

 翠が二人に気付いた。

「お疲れ、健ちゃん。 男子どうだった?」

「心配ない。」

 短く答えて、試合を終えたばかりの選手達を見回す。

「さっちゃん、スコアブック見せてや。」

 藤真が言うより先に、樋口が言った。

 渡されたスコアブックを、二人で覗き込む。

 藤真が眉を顰めた。

 思った通りだ。

(…………)

 に視線を移すと、真琴に肩を叩かれた。

 真琴は首を振る。

「…何も言わないであげて。 始まる前に、更科と富川の試合を見たの。 それで…」

 理由を聞いて納得した。

 更科も富川も、夏に比べて強くまとまったチームへと成長しているだろう。

「で、更科が勝ったんやろ?」

 樋口の言葉に、首を竦めて苦笑う。

「 98 - 40 。 圧勝だったわ。」

 これを聞いて流石に驚いた。

 夏、富川を相手に、竜なしでは勝てなかった。

 泉沢がやっとも思いで負かした富川に、ダブルスコアで勝ってしまうなんて。

 中学女子バスケでは、富川もそこそこ名の知れた強豪。

 やはり、更科の強さは絶対なのか。

「樋口…」

 藤真は思わず声に出してしまった。

 樋口が、の方へ歩いて行った。

「姫! お疲れさん。」

 は小さく首を振る。

「ダメ… ミスしてばっかりだった。」

 首を竦めて、笑う。

 スコアブックを見て、がどんな調子だったか想像出来た。

 前半はそれでも積極的だったが、初歩的なミスが目立ち。

 後半は、自らシュートに行かず、パスをさばいていた。

 は PG(ポイントガード) 。

 試合中のゲームの流れは、が決めているとも言える。

 そのが本調子でなかったため、チーム全体も調子が出なかったのだろう。

 それほどまでに。

(夏以上に、更科の強さがわかったか…)

 樋口はにっこりと笑った。

「調子が悪い日もあるやろ。 気にせんで、次の試合頑張るんやで。」

 の肩を叩いて続ける。

「アイス食いに行こうや! ほら、ボスが奢ってくれる言うとるで!」

 突然話を振られて、藤真は目をぱちくりさせた。

「樋口! そんな事、言ってない…」

「言うたやん、昨日。 オレの夢の中でやけど。」

 藤真の言葉を遮って、樋口が口を挟む。

「俺が知るか!」

「ええやん! 可愛い後輩が言うとるのに… ケチは嫌われるで!」

「なっ… 誰が可愛い後輩だって………」

ぷ。

 二人の会話。

 堪えきれず、は小さく吹き出した。

「来てくれてありがとう。 アイスゴチです。」

 は笑った。

 藤真は樋口を見る。

 が落ち込んでいたので、樋口はわざと藤真にそう言ったのだろう。

 藤真はぽりぽりと、頭を掻いた。

「…バニラでいいな?」

 樋口には敵わない。

 少し、そう思った。



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