帰り道 2



 先にを送って、藤真と樋口は岐路に付いた。

 藤真は気持ち緊張していた。

 樋口と二人になるのは、あの啖呵をきられた日以来だ。

「…心配せんでも、今日は何も言わん。」

 藤真の気持ちを悟ったのか、樋口が口を利く。

「ナマイキ言うて悪かったわ。 ちぃとばかしガキやったなって、反省してるんやで。」

「…いや。」

 樋口が、じぃっと藤真を見上げる。

 少し、胸が痛んだ。

「どうした?」

 樋口が、泣くかと思った。

 そんな表情をしていたので、思わず訊ねてしまった。

「ん…」

 曖昧に頷いて、首を竦める。

「やっぱ止めとくわ。」

 小さく首を振った。

「気になるだろ。 話せよ。」

 肘で小突く。

 樋口はぽりぽりと頬をかいて、はにかみながら口を利いた。

「姫の事なんやけど…」

「どうかしたのか?」

 少し眉を寄せる藤真に、そんなんじゃないと首を振る。

「姫って、キレイで小さいやん? せやから、ちゃんと捕まえな… どっか行ってしもうていなくなりそうで… 心配なんよ。」

 どう言えばいいのか、樋口自身もわかっていないのだろう。

 言葉の整理が出来ていない。

「何で、俺にそんな話を?」

 藤真が訊ねる。

 樋口はまっすぐに藤真を見上げた。

「ボスは、きっとオレと同じ気持ちやから。」

 樋口は続けた。

「せやからナマイキも言うたし、反抗もしたけど… それやったらあかんねん。」

 少し、首を竦めた。

 じぃっと、藤真を見据える。

「…姫の側におってな。」

 突然の言葉に、眉を寄せた。

 藤真が何か言うより先に、樋口が続ける。

「もちろん、オレは姫の側におるで。 ずっと一緒や言うたもん。 せやけど…」

 風が吹いた。

 樋口が何と言ったのか、聞き取れなかった。

「悪い、今何て…」

 藤真の声を遮って、首を振る。

「何でもないわ! 忘れてくれ!」

 何か恥かしい事でも言ったのか。

 樋口の顔が赤かった。

「じゃ、お疲れさん! 土曜の準決勝がんばろうな!」

 元気に手を振る。

「ああ。 目標は…」

「「 優勝! 」」

 声が揃った。

 一人踵を返して、藤真は頷いた。

 やっぱり、と樋口はどこか似ている。

 いつも何かしら、二人に励まされている。

 そんな気がした。



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