自転車



朝。

 いつからだろう。

 樋口がを迎えに来るようになった。

「行ってきます!」

 元気に出かけていくを見て、叔母の那美が笑った。

「気を付けてね。」

 を後ろに乗せて、樋口の自転車は走り出した。

「大分寒くなって来たなぁ。 姫、寒くないか?」

「大丈夫。 炎くんは?」

「姫が平気なら、オレは大丈夫や。」

 ゆっくり安全運転なので、学校まで10分程である。

「女子は、明後日か…」

 樋口の呟きに、樋口のブレザーをぎゅっと掴んだが頷く。

「炎くん、緊張してる?」

「ま、少しは…」

 樋口は首を竦めた。

 が首を振る。

「練習がんばったもん、大丈夫だよ。」

 の言葉に、何度励まされたかわからない。

「ん。 姫に貰ったリストバンドもあるし、姫が応援してくれるから、オレ頑張るわ。」

「ん! 男子も女子も…」

「「 絶対優勝!! 」」

 先週の試合以来、コレが二人の口癖だった。

 あまりにもぴったり声が揃ったのが少し照れくさくて、二人は笑った。

 自転車は軽快に駆ける。

「オレな、大好きな物が二つあるんや。」

 唐突もなく振られて、は首を傾げた。

「なーに?」

「一つはバスケ。 もう一つは… 姫や。」

 自転車を漕いでいるため、樋口の顔は見えない。

「京ちゃんも竜ちゃんもボスもみんな好きやけど、一番は姫や。」

 気のせいだろうか。

 樋口の耳が赤い。

「…姫には、好きな物ある?」

 は少し考えて口を利いた。

「ガーナとクランキーホワイトとチュッパチャップスとマロンシャンテリーとチョコチップサンデーと…」

 次から次へと出てくるお菓子の名前。

 樋口は苦笑った。

「全部お菓子やん…」

「あと…」

 が、ぎゅっと樋口のブレザーを握った。

「竜ちゃんと炎くん。」

 いきなりだったので、樋口は言葉に困った。

「ボスも翠ちゃんも京ちゃん先輩も好きだけど、一番は、竜ちゃんと炎くん。」

 花のように、にっこりと笑う。

「そか…」

 一度、咳払いをする。

「どんなに遠くにおっても、姫が呼んだらオレすぐに行くで。」

 背中の温もりに、気持ち緊張する。

「どんなに離れてても、オレと姫はずっと一緒や。 何でかわかるか?」

 樋口の言葉に、が首を振った。

「同じ夢に向って頑張ってるから。」

 樋口は笑った。

「せやから、オレ等は一緒なんや。」

 は小さく頷いた。

「そうだね。」

 左手首の裾から覗く、おそろいのリストバンド。

 樋口は眉を寄せた。

(ちゃんと話さなあかんな…)

 ひっそりと、心に誓う。



back