男子準決勝



 土曜日。

 決戦の日は来た。

 今日、女子の試合はない。

 全員で、男子の応援に体育館まで来ていた。

 と竜が、更衣室の前まで付いて行く。

「京ー☆ がんばれヨ!」

 竜の声に、京が頷いた。

 最後に更衣室に入ろうとして、樋口が足を止める。

 ゆっくり振り返った。

 緊張しているのか。

 何やら落ち着きのないようなその様子に、竜が首を傾げる。

 何か言おうとした竜を遮って、が首を振った。

 何も言わず、すっと右の拳を差し出す。

「あ…」

 少し驚いたような樋口に、にこりと笑顔で答えた。

 その何気ない仕草に、胸が詰まりそうになる。

 いつもなら、自分の拳をコツンと当てて、それだけなのに。

 樋口は、を抱き締めた。

「うおぅ…!」

 突然の大胆な行動に、竜がおかしな悲鳴を上げる。

「…試合………」

 を抱き締めたまま、樋口が続ける。

「終わったら、話さなあかん事があんねん。 聞いてくれるか?」

 不安に揺れる声。

「ん。」

 は、いつも自分がそうされるように、樋口の頭を一度撫でた。

「ありがとう。 ほんまにありがとう。」

 樋口はゆっくりと体を離し、ににこりと笑いかける。

「ちゃんと見ててや。 今日のオレは、やるで。」

 更衣室のドアが閉じた。

「あ〜、もうびっくりしたなぁ。 ドキドキしちゃったよぅ。」

 竜が胸の辺りを押さえている。

〜、昼間っからラブシーンは止めてよ〜。 心臓に悪いって。」

 からかうような口調の竜。

 二階の、応援席へ向う。

 は何も言わず、ぼんやりとしていた。

 何が引っかかっているのかわからないが、しっくり来ないトコロがある。

(炎くん…)

 時計に目をやると。

 11:39 。

 本日12時より、泉沢 vs 横田 の、準決勝が始まる。

 地方新聞や各雑誌社の記者等や、県内の中学バスケ関係者など。

 既に準決勝一回戦目を終えた、ライバル・武石中の姿もあった。

 武石中は勝利し、決勝へ駒を進めている。

 応援席は、すでに満員だった。

 夏。

 泉沢は、ここで敗れたのだ。

 横田中に勝ち、武石中に屈辱を晴らす事が出来るだろうか。

 ぎゅっと、拳を握る。

 何故だろう。

 妙な胸騒ぎがする。



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