胸騒ぎ



「あのチビ… やるじゃねえか。」

 試合を見ていた三井がぼやいた。

「…樋口のヤツ、口だけじゃないんだな。 ちくしょう…」

 南中の清田。

 夏に樋口と身長の事で喧嘩をして以来、樋口を一方的にライバル視するようになっていた。

「………」

 富ヶ丘中の流川。

 直接対決はした事ないが、互いの試合は幾度か見ている。

 近い将来、県内中学バスケは樋口と流川、二人の時代になるだろうとの見解は、大会本部の意見である。

 二人もまた、戦ってみたいと思っていた。

 後半戦に突入した。

 得点は、 47 - 38 。

 泉沢が押している。

「!」

 ぽんと背中を叩かれて、藤真が振り返った。

「…ボール回せや。」

 樋口が続ける。

「ボスは、その辺に突っ立って、偉そうに指示だけしてればええんや。」

 いつものナマイキな含み笑いがない。

 真剣な表情で見上げられて、藤真は首を振った。

「…悪い。」

 樋口が首を振る。

「悪くない。 強いて言えば、気付いたオレが悪いんや。」

 ドリブルをしながら、樋口がゆっくり進んだ。

 藤真は、一度大きく息を吐いた。

 右手で、左の肩に触れる。

 一度、目を閉じた。

「行くぞ。 優勝だ。」

 静かに、しかし力強い声で呟いた。

 後半に入っても、泉沢のペースは落ちない。

「…炎、すごいネ。」

 竜が感心したように呟く。

 は少し眉を寄せていた。

「…ん。」

 元気のない声に、竜がを見据えた。

「何でそんな不安そうなの??」

「わかんない…」

 何故だろう。

 まったくと言ってもいいほど、樋口は絶好調で。

 見ている観客達も、泉沢が勝つだろうと囁いているのに。

 何を、こんなに不安になっているのだろう。

 スティールからの速攻。

 誰にも樋口は止められない。

 強いて言えば。

 調子が良すぎるのが怖い。

 そんな感じだろうか。

 色違いの左右の瞳は、コート上を駆ける樋口だけを追っていた。



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