勝敗 - 横田中 -



 ざわめく、館内。

 あれよこれよと、飛び交う声。

 とても騒がしいはずなのに、の周りは静かだった。

 何故だろう、その場から動けなかった。

…!」

 背後から、竜がの肩を掴んだ。

 はっと、我に返る。

「炎…くん………」

 声が上擦った。

 唇が震えている。

「炎くん!!」

 駆け出そうとした小さな体を、竜が後ろから抱き締めて押さえつけた。

「気持ちはわかるけど、ダメだって! ボク等が行っても何も出来ないよ!」

 救急車が呼ばれ、樋口が担架で運ばれて行く。

「炎くん!!」

 がいる場所とは逆方向へ。

「炎くん…!!」

 名前を叫ぶ事しか出来なかった。

 樋口の姿が見えなくなっても、はその場から動けなかった。





ピィー。

 試合終了の笛が鳴った。

 最後に放った藤真の3pシュートは、ゴールネットを掠めてコートに落ちた。

 藤真はゆっくり目を閉じた。

(…終わった………)

 65 - 67 。

 同時に、もう上がらない左肩に手を添える。

 昨日、住田に打たれた肩。

 痣がくっきりと浮かび上がり、とても動かせるような状態ではなかった。

 それに気付いた樋口が、藤真の分まで頑張ったが。

(樋口………)

 藤真は唇を噛み締めた。

 横田中に負けた事よりも、樋口が気になって仕方なかった。

 いつだっただろう。

 聞いても答えなかった、病院へ行った理由。

 学校を休んだ訳。

 考えてみれば。

(何も知らないんだな、樋口の事…)

 挨拶を済ませ、それぞれベンチへ下がる。

「お疲れさま…」

 竜が眉を寄せていた。

 その隣で、が制服のスカートをぎゅっと握っていた。

「………」

 かける言葉が見つからない。

 が、取り乱す所を見たのは始めてだった。

 明日。

 正午から女子の決勝が行われる。

 荒れるな。

 口には出さないが、誰もがそう思った。



back