迷い



 ゆっくりと、目を開けた。

 じっと。

 そこにある全ての視線が、自分に向けられている。

 は首を竦めた。

「イヤだなぁ、みんな。 大丈夫ですよ。」

 気丈に振舞うから、何も言えなくなる。

「試合始まりますよ? 観客席に行かないんですか?」

 藤真は首を振った。

 が試合に集中して臨もうとしている。

 樋口がいない今、を支えてやれるのは自分しかいない。

 くしゃっと、髪を撫でた。

「勝てば優勝だ。 しっかりやって来い。」

「はい。」

 本心では心配で仕方なかった。

 が取り乱すのを見たのは、始めてだったから。





 12時。

『ただいまより、更科中学 対 泉沢学院 の試合を行います。』

 流れるアナウンス。

 10時から行われた男子の決勝では、武石中が優勝した。

 女子試合終了後、そのまま表彰式が行われるので、客席は人で溢れていた。

 ボールが放られる。

 試合が始まった。

 藤真はただ、だけを見ていた。

「…思ってたより、落ち着いてるな。」

 大祐だった。

 藤真より先に、京が首を振る。

「…キャプテン、気付いてます?」

 と、藤真の顔を覗き込む。

ちゃん… 昨日あれから、一度も笑ってないんですよ…」

 コート上で、誰よりも小さい少女。

 は、一体どんな気持ちで試合に臨んでいるのだろう。

 迷っていた。

 このまま試合に出して、大丈夫だろうか?



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