見せ場



 静かだった。

 対 更科戦だから?

 そうじゃない。

 観客達の視線は、ただ一人にだけ注がれていた。

「すごい………」

 誰かがぼそっと呟いた。

(11点目…)

 時折呼吸を忘れるほどに、藤真は集中していた。

 フリースローを二本決めて、は息を吐いた。

 まだ、前半9分を過ぎた辺り。

 不安が一つ消えた。

 流石に、樋口の動きをそのままなぞるのには限界があったのだろう。

 最初の5分で、は自分のプレイに戻した。

 それでも。

(おかしい…)

 藤真が眉を寄せた。

 のポジションは、ポイントガード。

 いつもにくらべて明らかに、自らシュートに行く回数が多い。

 しかも、フリースローや3Pなどの、成功率が高い。

 調子が良すぎる。

 昨日、樋口は調子が良すぎた。

 藤真は知らないが、はそれを心配していた。

 同じ事を、更科の香咲も思っていた。

「すごい調子がいいのね、12番。」

 マークをしていた竜が眉を寄せる。

「当たり前だよ。 この試合に、優勝がかかってるんだ。」

 香咲は細く笑った。

「まだ一年でしょう。 スタミナが持つかしら?」

 竜を見据えたまま続ける。

「貴女もよ、竜。 一試合フルに、私をマークし続ける事が出来るなんて、思わないことね。」

 香咲には、一つの作戦があった。

 前半のうちに、竜を振り回しスタミナ切れにする。

 もしくは。

 夏と同様、力の差を見せつけ、戦意を喪失させる。

 それが成功した上で、後半戦はをマークする。

 更科と泉沢。

 チームとしての実力は、更科が上だ。

 ただ。

 竜が、そしてがどれだけ成長したか。

 準決勝の白海戦では、の実力を測りかねていた。

 が強くなった分だけ、更科の優勝が脅かされる。

 この試合で…

 いや、この大会で、香咲澪が最も警戒している選手。

 それが泉沢の12番だった。

ポス。

 がシュートを決めた。

 竜が細く笑う。

「うちの PG が好き勝手やらせてもらってるみたいだけど… 更科の選手に、は止められないみたいだね。」

「何か思い違いをしているようね。」

 香咲が目を細めた。

「…好き勝手やらせてあげてるのよ。」

バチィッ。

 翠からへ放ったパスがカットされた。

 が飛び出す。

 更科の選手が笑った。

 香咲が駆け出す。

 追いかけようとして、更科の選手に阻まれた。

(スクリーン…)

 香咲が高くボールを放る。

 3P ラインからの、フェイダウェイジャンプショット。

 シュート体制に入ってから、ボールを放るまでが早い。

 それは、泉沢と更科の力の差を見せ付けるのには、十分な一発だった。

「今のは、重いな…」

 大祐が首を振った。

「竜………」

 京が眉を寄せる。

 藤真が唇を噛んだ。

「大体の実力はわかったわ。」

 香咲が笑った。

「泉沢の見せ場は終わりよ。 覚悟しなさい。」



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