泉沢の12番



 あっと言う間だった。

 が積み上げた得点に、あっと言う間に追いつかれた。

 10点の差があったのに。

 2分も経たずに、5点差にまで詰められていた。

「泉沢が攻撃に主点をおくなら、更科も攻撃を優先する。」

 ドリブルしたまま、香咲が続けた。

「点の取り合いで、勝てるなんて思わないことね。」

 ずばっと、入った。

 相手が更科なだけに、プレッシャーが半端じゃない。

(とりあえず勢いを止めないと… だけど、どうすれば…)

「はい!」

 の声に、真琴が視線を投げた。

ちゃん…」

 大きく手を上げて、ボールをくれと訴える。

(何か考えがあるのかしら…)

 藤真が絶対的に信頼している PG 。

 そんなだから、任せてみようと思った。

 にボールが渡る。

(どうする…?)

 秋山も、がどうするつもりなのか予測が出来ず、ただ見守っている。

「! 来るわよ!」

 香咲が言うより先に、は中へ切り込んだ。

 更科の長身センターがガードに来るより先に、ボールを放る。

「! フェイダウェイ!」

 館内全ての視線が、少女の放ったボールに注がれる。

バスッ。

 ボールはゴールに吸い込まれた。

「!!!」

 がたっと、藤真が席を立った。

今のは。

「…少し、強引ですよね………?」

 京だった。

 驚くほど、シュートまでの流れが速かった。

 追われて気持ちが焦っている。

 外れるだろうと、藤真も香咲も思っていたのに。

 藤真は小さく首を振って、席に着いた。

「………」

 香咲は頭を振った。

「まぐれよ。 気にしないで、次。 行くわよ。」

 更科のスローイン。

ばちっ。

 カットされた。

 だった。

 低く素早いドリブルで、一人、また一人と抜く。

 黛にパス。

 3P ラインから放られたボールは、更科の選手の指に触れてゴールへ向う。

「「リバウンド!」」

 それぞれの4番が叫んだ。

 が駆け出す。

 ゴール下でのリバウンド争い。

 制したのは更科の選手だった。

 は着地と同時に、ボールを奪う。

 近くにいた翠へパスを回すが、それは読まれていて、更科の選手にカットされた。

 更科のカウンター。

 香咲にボールが渡った。

「竜! 勝負!」

 瞬きをした一瞬で、横に並ぶ。

 振り返る頃には既に抜き去られていた。

「くそっ!」

 竜が追う。

 香咲は完全にフリーだった。

 ゴールを見上げる。

 シュート体制に入ろうとした時。

トン。

 背後からボールを叩かれた。

 竜は抜いたはず。

(一体誰が…)

 振り返って、香咲は息を飲んだ。

 12番のユニフォームが見えた。

 香咲が驚いて何を言うより先に、が飛び出した。

 大きなセンターに、躊躇わず向う勇気。

 完璧にフリーだった香咲に追いついたスピード。

 一瞬で最高速に達する脚力。

 女王更科を出し抜く、意表性。

(12番………)

 香咲が唇を噛んだ。

 が3P ラインから跳んだ。

 更科の選手が、ブロックに跳ぶ。

バチッ。

 の手を叩いた。

 気にも留めず、はゴールをまっすぐ見据えてボールを放った。

ポス。

ピィー。

 ボールはゴールに吸い込まれ、審判が笛を吹く。

「バスケットカウント、ワンスロー。」

 会場が沸いた。

「…そんな………」

 さすがの香咲も、言葉を探せない。

 追いつかれ、交わされ、ファールしてもゴールを決められてしまった。

 さらにフリースローを決め、一気に4点も差を広げる。

 泉沢の12番。

 たった二度のゴールで、香咲は思い知らされた。

 は、ゲームを支配していた。



back