あっと言う間だった。 が積み上げた得点に、あっと言う間に追いつかれた。 10点の差があったのに。 2分も経たずに、5点差にまで詰められていた。 「泉沢が攻撃に主点をおくなら、更科も攻撃を優先する。」 ドリブルしたまま、香咲が続けた。 「点の取り合いで、勝てるなんて思わないことね。」 ずばっと、入った。 相手が更科なだけに、プレッシャーが半端じゃない。 (とりあえず勢いを止めないと… だけど、どうすれば…) 「はい!」 の声に、真琴が視線を投げた。 「ちゃん…」 大きく手を上げて、ボールをくれと訴える。 (何か考えがあるのかしら…) 藤真が絶対的に信頼している PG 。 そんなだから、任せてみようと思った。 にボールが渡る。 (どうする…?) 秋山も、がどうするつもりなのか予測が出来ず、ただ見守っている。 「! 来るわよ!」 香咲が言うより先に、は中へ切り込んだ。 更科の長身センターがガードに来るより先に、ボールを放る。 「! フェイダウェイ!」 館内全ての視線が、少女の放ったボールに注がれる。 バスッ。 ボールはゴールに吸い込まれた。 「!!!」 がたっと、藤真が席を立った。 今のは。 「…少し、強引ですよね………?」 京だった。 驚くほど、シュートまでの流れが速かった。 追われて気持ちが焦っている。 外れるだろうと、藤真も香咲も思っていたのに。 藤真は小さく首を振って、席に着いた。 「………」 香咲は頭を振った。 「まぐれよ。 気にしないで、次。 行くわよ。」 更科のスローイン。 ばちっ。 カットされた。 だった。 低く素早いドリブルで、一人、また一人と抜く。 黛にパス。 3P ラインから放られたボールは、更科の選手の指に触れてゴールへ向う。 「「リバウンド!」」 それぞれの4番が叫んだ。 が駆け出す。 ゴール下でのリバウンド争い。 制したのは更科の選手だった。 は着地と同時に、ボールを奪う。 近くにいた翠へパスを回すが、それは読まれていて、更科の選手にカットされた。 更科のカウンター。 香咲にボールが渡った。 「竜! 勝負!」 瞬きをした一瞬で、横に並ぶ。 振り返る頃には既に抜き去られていた。 「くそっ!」 竜が追う。 香咲は完全にフリーだった。 ゴールを見上げる。 シュート体制に入ろうとした時。 トン。 背後からボールを叩かれた。 竜は抜いたはず。 (一体誰が…) 振り返って、香咲は息を飲んだ。 12番のユニフォームが見えた。 香咲が驚いて何を言うより先に、が飛び出した。 大きなセンターに、躊躇わず向う勇気。 完璧にフリーだった香咲に追いついたスピード。 一瞬で最高速に達する脚力。 女王更科を出し抜く、意表性。 (12番………) 香咲が唇を噛んだ。 が3P ラインから跳んだ。 更科の選手が、ブロックに跳ぶ。 バチッ。 の手を叩いた。 気にも留めず、はゴールをまっすぐ見据えてボールを放った。 ポス。 ピィー。 ボールはゴールに吸い込まれ、審判が笛を吹く。 「バスケットカウント、ワンスロー。」 会場が沸いた。 「…そんな………」 さすがの香咲も、言葉を探せない。 追いつかれ、交わされ、ファールしてもゴールを決められてしまった。 さらにフリースローを決め、一気に4点も差を広げる。 泉沢の12番。 たった二度のゴールで、香咲は思い知らされた。 は、ゲームを支配していた。 |