再会



『…試合………』

 あの時はしっかりと抱き締めていてくれたのに。

『終わったら、話さなあかん事があんねん。 聞いてくれるか?』

 試合前、そう言っていつものように笑ったのに。

笑ったのに。―――――

 きみは倒れて。

 まだ目を覚まさない。

 どうすればいいかわからないなんて、始めてだった。





ス。

 目を開けた。

「…気が付いたか。」

 ゆっくり、焦点を合わせる。

「…ボス。」

 言葉を飲み込んだ。

 心配そうに自分を見据える藤真。

 その肩越しに。

「炎…くん………」

 夢でも見ているのだろうか。

 上体を起こし、驚いて、目を丸くする事しか出来ない。

「目ん玉落っこちるで。」

 樋口は少し困ったように、首を竦めて笑った。

「あ………」

 その何気ない仕草に、心が洗われるような錯覚すら覚える。

 夢や幻ではない。

「だって… 炎くん………」

 涙が出そうになった。

「ん。 オレがあかんのや。 心配かけて悪かったな。」

 と、藤真の隣にしゃがみ込んだ。

 コートに落ちた時に打ったのだろう頭に、藤真が包帯を巻いていた。

 割れ物に触るように、優しく、の髪を撫でる。

「大丈夫なの?」

「女子が優勝する日や。 おとなしゅう出来へんわ。」

「ん…」

 樋口はを見てにこりと微笑んだ。

「そんな顔せんでや。」

 樋口を見上げながら、は今にも泣きそうな顔をしていた。

「オレな。 自分が痛いとかはなんぼでも我慢出来る。 でも、姫が痛いとか苦しいとか、そんなんはイヤなんや。 …オレのせいやわかってても、イヤなんよ。」

 と、バツの悪そうに首を竦めた。

「な。 いつもみたく、笑ってや。」

「…ん。」

わぁあ!

 響く歓声に、我に返る。

「試合…!」

 が弾けたように藤真を見た。

 藤真が首を振る。

「後半戦、すぐに逆転された。 一方的な試合になっている。」

きゅっと。

 唇を噛んだ。

 樋口がにっこり笑った。

「大丈夫や。」

 の左手を取って、どこから取り出したのか、一本のマジックで、リストバンドに何やら書いている。

「姫なら大丈夫や。 泉沢の12番、PG 。」

 じぃっと、リストバンドを見つめた。

「 present the game ?」

 確かにそう書いてある。

 首を傾げるに、頷く。

「ただのポイントガードやない。 試合をプレゼントしてくれるんや。」

「誰に?」

 じっと樋口を見上げて、が首を傾げた。

「オレにや。」

 樋口はにぃっと笑った。

「オレ、トロフィー欲しいねんもん。 姫に勝ってもらわな困る。」

 本気で困ったような顔をするから、本当に勝たないとだめだと思う。

 は笑った。

「ほれ。」

 樋口は左の拳を差し出した。

 袖口から、おそろいのリストバンドが覗いている。

 は笑った。

「ん! がんばる!」

「目標は…」

「「 優勝! 」」

 コツンと、拳を合わせる。

 何の根拠もないのに、本当に大丈夫だと思った。

 樋口がいつものように、自分を見て笑うから。



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