才能


「ファイトやで〜!」

 客席には戻らず、当たり前のようにベンチのコーチの隣に座る。

「ええやろ?」

 藤真を見上げた。

「一番近くで、見ていたいんや。」

 藤真は小さく息を吐いた。

「そうだな。 先生、失礼します。」

 佐藤コーチが笑った。

「仕方ないですね。 まだまだ子供ですか…」

 樋口はコートを見たまま口を利いた。

「子供やから、必死になって夢を追いかけるんや。 夢はいつまでも、心に持つべきや。」





ダム。

 ボールの音が響く。

 香咲はに付いていた。

(この子…)

 唇を噛む。

(本気で24点取り返す気?)

 前半のようなぴりぴりした空気はもうない。

 むしろぽや〜っとした空気をかもし出しているは、次の行動が予測し辛かった。

「!」

 一瞬、呼吸を忘れた。

「なっ…」

早い!―――――

 前半のそれとは比べ物にならない。

 この小さな体のどこに、そんな力が隠れているのだろう。

 更科のセンターがブロックに跳んだ。

 ゴールをまっすぐ見据えて、ボールを高く放る。

「フックショットや!」

 シュートは決まった。

 同時にファールをもらい、フリースローも決める。

「一気に3点や!!」

 ベンチで樋口が手を叩いた。

「なーっはっはっは! どや、見たか! これが泉沢の12番! ポイントガード改めプレゼントゲーム、や!! 更科、覚悟ー!!!」

 ベンチに登り、大声で嬉しそうに叫ぶ。

「うるさい! 何でお前が調子に乗るんだ!」

 藤真の声もお構いなしに、樋口は高笑いしていた。

「プレゼントゲーム…? まだ3点決めただけじゃない。」

 香咲は頭を振った。

(…まぐれよ。 そんなに続かないわ。)

 一瞬で、視界から消えた。

 気が付いたらすでに、走り出していた。

 元より、スピードはある。

 たったワンプレーで、の実力を垣間見た。

 佐藤コーチが笑った。

「スピードも…」

 樋口も藤真も、佐藤コーチをじっと見る。

「シュートも集中力もボディバランスも、さんが持つ才能ですね。」

 藤真が細く笑って首を振る。

「それだけじゃありませんよ。 確かに、それらはの才能かもしれない。 だけど…」

「才能を開花させるまでの、地道な努力!」

 樋口がナマイキそうに笑った。

「一番褒めなあかんのは、そこやろ?」


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