香咲が首を振った。 「大した一年ね。 でも、所詮はワンマンチーム…」 じぃっとを見据える。 「まともに動けそうなのは貴女だけ。 さぁ、どうするの?」 はぷぅと頬を膨らませた。 「私は、私に出来る事をやります!」 黛も、秋山も、翠も… 竜も。 相当疲れていた。 けれど。 (気に入らないわ…) 誰一人、諦めていない。 まだ、勝てる。 むしろ、勝つ。 そんな目をしていた。 (この子は、走らせちゃ行けない。 それだけ。) 少し離れて、腰を落として深く構える。 に対しては、一ミリのスキも与えなかった。 は一度、大きく深呼吸した。 『大丈夫や。』 ん、大丈夫。――――― 「負けない。」 小さな呟きに、香咲が眉を寄せた。 「約束したもん。 絶対勝つ!」 精神は時に、肉体を凌駕する。 そんな事を思わせる、時間だった。 パスッ。 一瞬、時が止まった。 「…プレゼントゲーム。」 観客の一人が、小さく呟いた。 わぁあ! 歓声が上がる。 「がんばれ、泉沢! 12番!!」 「奇跡を起こせ! 時間がないぞ!」 会場はすでに、泉沢の味方だった。 残り一分。 58 - 60 。 まるで夢を見ているかのようだ。 (…22点も、本当に追いつくとは………) 「まったく… 末恐ろしい子だ。」 「めっちゃ強引やん。 心臓に悪いわ。」 藤真と樋口がそれぞれ呟いた。 更科ボール。 (12番は…) 目だけ動かして、を探す。 「!」 思ったより近くにいた。 ラインの外から、スローインをしようとしていた更科選手の、手元が狂った。 が駆ける。 「もうさせないよ!!」 シュートのため跳んだ。 それを追う様に、更科の選手が跳んだ。 「! 止めなくていい! 2点はやらせなさい!」 香咲の声。 その意味に気付いた時は、既に遅かった。 ピィー。 笛が鳴る。 シュートは成功した。 「バスケットカウント・ワンスロー!」 60 - 60 。 「残り40秒。 決めれば、逆転だ…」 強く握った拳に、汗をかいていた。 樋口も、もう何も言わず、大人しく試合を見守っている。 は息を吐いた。 残り時間が少ないこの局面で、この一本は絶対に落とせない。 プレッシャーのためか、指が微かに震えている。 「ワンショット!」 審判にボールを渡された。 会場が静まり返る。 じぃっと、ゴールを見上げて。 少し、唇を噛んだ。 「大丈夫や!」 静まり返った会場に、樋口の声が響いた。 驚いて、はベンチに視線を向ける。 「大丈夫や。 何も怖くない。 大丈夫や。」 何故だろう。 笑顔でそう言うから、本当に大丈夫だと思った。 |