勝利


「やっ…」

 試合が終了した。

「「「「「 やった〜!!! 」」」」」

 泉沢。

 選手も応援していた観客も、大歓声を上げた。

「いいぞ〜、泉沢!」

「よくやったな、12番!」

「present the game 、すごかったわよ〜!」

 へ、盛大な拍手が送られる。

 樋口が眉を寄せた。

「の、乗り遅れた…」

 その台詞に、藤真が首を竦めた。

 会場にを取られて、少し悔しそうな顔をしている樋口。

(まだまだ子供だな〜…)

「!」

 が二人の方を振り返った。

 にっこりと笑って、二人の方へ駆けてくる。

 二人は、を抱き締めようと、ほぼ同時に両手を広げた。

「!!!」

 樋口が何か言いたそうに、藤真を思いっきり睨んだ。

「………」

 耐え切れず乾笑する。

「炎くん! ボス!!」

 は両手を広げて、二人に飛びついた。

 駆けてくる途中、取れた包帯がコートの片隅に落ちていた。

 そんな事も気にせずに、はぎゅっと二人を抱き締めた。

 雑誌社や、観客達がフラッシュを浴びせる。

「偉かったなぁ。 ほんま頑張った。」

 樋口がにっこり笑った。

「さぁ、整列して来い。 その後表彰式だ。」

 藤真の声に、にこりと笑う。





 初優勝を納めた泉沢。

 トロフィーとメダルを貰い、観客達から拍手が送られる。

 は、新人王に選ばれ、ベストファイブとして表彰されていた。

「…すごいなぁ。」

 樋口が呟いた。

「頑張ったもんな… ちゃんと、約束も守って…」

 ふと、目を伏せる。

「あかんな、オレ。 姫があんなに頑張ってるのに、ほんま情けないわ…」

 藤真が、バシッとその背中を叩いた。

「何言ってるんだ。 ちゃんが頑張れたのは、お前がいたからだろ。」

 少し見上げると、藤真はにっこり笑っていた。

「…ボスもおったやろ。 ま、オレのついでやけど。」

 樋口は照れくさそうに、頭を掻いていた。

 無数に浴びせられるフラッシュ。

 その中で少女はいつものように笑っていた。

 は自分で勝利を勝ち取ったのだ。

 そんな姿を見ていると、遠い存在のように感じて少し淋しい。

 表彰式が終わった。

 思ったとおり、は各社記者に捕まってしまい、樋口はココでも出遅れた。

「…オレの姫や。」

 いじけたように、ぷぅと頬を膨らます。

「プレゼントゲーム。 今日の主役だから、仕方ないさ。」

 藤真が首を竦めた。

「炎くん! ボス!」

 人波を掻き分けて、トロフィーを片手にが駆け寄って来る。

「なっちゃんが写真撮ってくれるって! 一緒に撮ろう!」

 にっこりと笑うに、二人は首を竦めた。

 を真ん中に、三人で並ぶ。

「カッコよく撮れよ。」

 そう言いながら、樋口がを抱き締めた。

(大胆なヤツだな…)

 毎度樋口の行動には、驚くと言うか感心すると言うか。

 最近は、そんな様子も微笑ましい。

「この際だから、抱き締めておきなさいよ、藤真君。」

 成瀬が面白がって声を投げた。

 ちらっとを見る。

 樋口は相変わらず睨んでいるが、そんな事も気にならないほど、は嬉しそうに笑っていた。

「…じゃ、今日だけ。」

 そっと、の肩を抱く。

「あ〜!」

 抗議の声を上げる樋口に、成瀬が首を振った。

「いい? 撮るわよ!」

「なぁ…」

 樋口がぼそぼそと何か囁いた。

 写真撮影が終わって、と藤真が頷く。

「インタビューの続きいいですか?」

 三人の方へ向って来る記者を見て、にんまり笑った。

「行くで!」

 樋口の声が合図だったかのように、三人で駆け出す。

「あ、ちょっと…!」

 突然の出来事で、さすがの成瀬も少し慌てた。

ちゃん、一言! 何かちょうだい!!」

 小さな背中に声を投げる。

 は振り返った。

「バスケットが大好きです!!」

 満面の笑みだった。

 まんまと逃げられ、成瀬は小さく息を吐いた。

「ったく… 子供ってこれだから…」

 口ではそう言うが。

 三人を見守る瞳は、優しかった。


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