写真


「あっはっはっはっは☆」

 いつもの放課後。

 成瀬のバカ笑いが、体育館に響いた。

「いやぁ〜、さすがと言うか何と言うか…」

 笑い過ぎて、涙目になっている。

「その時の島田会長の顔、是非見たかったわ〜。」

「気の毒な事したわ。 でも、オレ等にだって、優先順位があるんよ。」

 少しも悪びれた様子もなく、樋口が言った。

「はぁ〜… どーしよ、『選抜に期待』なんて、書かなきゃよかった。」

 首を竦める。

「まさか三人揃って断るとは、思っていなかっただろう。 確かに悪い事したな。」

 3Pラインから、ボールを高く放る。

 きれいなアーチを描いて、ボールはゴールに吸い込まれた。

ダム…

 床に跳ねるボールを見る藤真は、小さく笑っていた。

「嬉しそうねぇ、藤真君。 『鬼コーチは、ボス一人で十分』、そりゃ嬉しいわよね〜。」

 茶化すような成瀬の声に、眉を寄せた。

 でも、何も言わない辺り、図星なのだろう。

「ところで、なっちゃん。 プレゼントがある言うてたけど、何?」

 樋口が首を傾げた。

「あ、そうそう…」

 がさがさと、紙袋を漁る。

「んふふふふ…」

「気色悪い笑い方やめ…」

 成瀬がを見て、にこりと笑った。

「はい。」

 一つの包み。

 思ったより、重い。

「開けてもいい?」

「もちろん。 もうすぐ誕生日よね? 当日渡しに来れないから、先に渡しておくわ。」

 少し、どきどきしながら、包みを開けた。

「わぁ…」

 少し大き目の写真たて。

「ムフフ… ちゃんと写真もあるのよ!」

 偉そうにそう言って取り出したのは、一枚の写真。

 表彰式終了後、成瀬に撮ってもらった写真。

 トロフィーを抱えたと、両隣からを抱き締めている、樋口と藤真。

「どう? よく撮れてるでしょう。」

 満足そうにそう言った。

「ありがとう、なっちゃん!」

 がにっこりと笑った。

「なっちゃん、オレのは!?」

 樋口が食い付く。

「あるわよ、ほら。」

 樋口と、藤真にも同じものを渡す。

 しばらくじっと写真を見ていたが、突然、樋口が何か思い付いたように、マジックを手に取った。

きゅきゅっ。

 何か、書いている。

「よし!」

 満足したように、大きく頷いた。

 三人が、それを覗き込む。

『優勝 おめでとさん!』

「マジック貸して!」

 が樋口からマジックを奪った。

きゅきゅっ。

『全中優勝! 12/** 』

 樋口が藤真を見上げた。

「俺はいいよ… って、コラ!」

 藤真の断りもなしに、藤真の写真を奪った。

 も一緒になって、何か書こうとしている。

「もー… 変な事書くなよ…」

きゅっ きゅきゅっ。

 何も言わず、ずいっと写真を差し出した。

「……………」

 受け取って、藤真は言葉を飲み込んだ。

『鬼コーチ・ボスへ。 一年間、ありがとうございました!』

 樋口とを見据える。

 二人は顔を見合わせて頷いた。

「「 ありがとうございました!! 」」

 ぺこりと頭を下げる。

 突然かしこまって頭を下げられて、藤真は心に隙間風が吹いたような、そんな虚しい気持ちを感じた。

(そうか、大会も終わったって事は…)

 頭を下げたままの二人を見て、くしゃっと前髪をかきあげる。

「バスケは引退しても、お前等の鬼コーチは、卒業するまで引退しないからな!」

 この声に、樋口が顔を上げた。

「当たり前や! 引退させてやらんで! オレ等はボスの下で強くなるんや!」

「ボスに勝つまで、私達がんばる!」

 がにっこりと笑った。

(いいわ、青春時代ね…)

 少し、涙ぐんでいた成瀬がいたとかいなかったとか。


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