お正月は…

「よし!」

 妙に気合の入った男、三井寿。

 本日は、元旦。

 年明けの正月早々どこへ行くのだろう。

 その足取りは軽く、鼻歌など歌っている。

(アイツ、三年ぶりの日本なんだよな…)

 歩きながら、ぼんやりそんな事を考えていた。

 他でもない、の事だ。



 歩き続けてしばらく。

 見覚えのある赤い髪が、視界に入った。

「桜木!」

 三井の声に、桜木が振り返る。

「お〜、みっち〜。 こんな所で会うなんて奇遇だな!」

 いつのも高笑いをしながら、桜木がふんぞり返った。

「…何してんだよ、こんな所で?」

 三井の言葉に、ぎくりとしながらも桜木は首を振った。

「な〜に! 散歩だ、ただの!」

 明らかに嘘を付いている。

「ふーん。 ま、別にいいけどな。」

「みっち〜こそ、どこに行くんだ? この先は…」

 桜木の言葉を、通行中の自転車が遮った。

どっかーん。

 運転手は居眠りをしていたらしい。

 勢いあまって、桜木が吹っ飛ばされる。

「いって〜なっ! 気をつけやがれ! って、あ゛〜っ!!」

 桜木が大声を上げた。

 そのあまりの声の大きさに、居眠り運転手が目を覚ました。

「…何やってんだよ、どあほう。」

 不機嫌そうに呟いたのは、流川だった。

「流川、お前もか!」

 三井が苦々し気に呟いた。

 首を傾げながらも、流川は頭を下げた。

「…あけましておめでとうございます。」

 三井は面食らったようにまじまじと流川を見据えたが、すぐに桜木に視線を移した。

「コレだよ、コレ! 何で、てめえは先輩に挨拶の一つも出来ねえんだよっ!」

「…こんな所で、何やってんすか?」

 先ほど、三井が桜木にしたのと同じ質問だ。

「い、いや、何んでもねえよ。 散歩だ、散歩! な?」

 桜木に同意を求める。

「そうとも、ただの散歩だ!」

 桜木も調子よく三井に合わせて、肩なんぞ組んだりしている。

「…そーっすか。」

 流川は、再び自転車に跨った。

「お前は、何してんだよ?」

 三井の問いに、流川は一言だけ答えて、走り去った。

「…と、初詣行こうと思って。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「流川、待ちやがれ!!!」

「待て、キツネ!!!」

 三井と桜木、流川を追って駆け出す。

 自転車に並んで走る二人に溜息を吐いて、流川が言った。

「散歩って言いましたよね…。」

「ああ、そうだ! 今からを連れて、神社まで散歩だ!」

「待て、みっち〜! さんと御参りに行くのは、この天才だ! 庶民達は引っ込んでろ!!」

「んだよっ! やっぱり、てめえもか! 赤木の妹はどうしたんだよっ!?」

 三井は桜木に向って怒鳴った。

「うるさいっ! 晴子さんは、藤井さんと初詣に出かけているんだ!」

 涙を流しながら、桜木が訴える。

 自転車も流川にも一歩も引かず、三井と桜木は直走った。

「てめえら! 先輩を敬って、大人しく帰りやがれっ!!」

「ふざけるな、みっち〜! クリスマスを虚しく一人で過ごした天才に、少しは同情しろ!」

「…先輩とか後輩とか、関係ないっすよ。」

 の家が見えて来た。

「「「ん?」」」

 三人が三様に首を傾げる。

 先客がいる。

 宮城だ。

 三人には気付いていない。

 今にも、チャイムを押しそうだった。

「宮城〜!!!」

「へ?」

 首を傾げて振り返った宮城に、三人は勢いあまってそのままぶつかった。

 四人仲良く地面に転がって、それぞれぶつけた所を押さえている。

「いててて…」

 宮城が三人を睨んだ。

「いきなり何だよっ!!!」

「黙れ! 抜け駆けは許さねえ!!」

 宮城と三井が言い争ってる隙に、流川が立ち上がりチャイムに手を伸ばした。

「キツネ、この天才を差し置いて何をする〜!」

 湘北高校バスケ部。

 新年早々、人様の家の前で乱闘を繰り広げている。

 まったく、迷惑極まりない。

「…明けましておめでとうございます。」

 聞き覚えのある声に、四人は一斉に振り向いた。

「ジンジン…」

 とは幼なじみで、家も隣。

 騒ぎに気付いて、何事かと見に来たらしい。

「皆さんお揃いで、どうかしたんですか?」

 首を傾げる神に、三井は言葉を飲み込み、流川は無視を決め込み、宮城は何と言うべきか慌て、桜木は馬鹿正直に答えた。

サンを、誘って神社に…」

「はなみち〜!」

 宮城が、桜木の言葉を遮った。

 ただでさえややこしく揉めているのだ。

 神まで加わったら、さらに拗れる。

 四人を見て、神は全てを悟って苦笑った。

「年賀状、見てないんですか?」

「「「「は?」」」」

 首を傾げる一同に、神は自分が持っていた一枚のハガキを差し出した。

 差出人は、深雪である。

『あけましておめでとう。

去年は、色々お世話になりました。

今年も、色々面倒見てね。

は、お正月は、イギリスで過ごすけど、お土産買って帰って来るから楽しみにしててね。』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「「「「はぁっ!?」」」」

 声を揃えて叫んだ四人に、神は首を竦めた。

「年末って皆慌てますからね。 きっと言い忘れて、発ったんでしょうね。」

 ハガキを返してもらって、神は一度頭を下げた。

「じゃ。 今年もよろしくお願いします。 寒いですから、早く帰った方がいいですよ。」

 再び家の中に戻る神を恨めしそうに見据えながら、三井は溜息を吐いた。

「…四人で、行くか?」

 どうするかと言わんばかりに、他の三人を見回す。

「そーですね…」

「…うす。」

「…さん〜。」

 つい先ほどまで争っていた四人は、それぞれ背に哀愁を漂わせながら、歩き出した。



× × × × × × × × × ×



あけましておめでとうございます。
お正月は…
イギリスで、過ごしたいですね。(願望)
新年一作目が、ギャグです。
すみません。
こんなサイトですが、今年もよろしくお願いします。(m_ _m)



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