「あかん! 降り出しよった! ちゃん、早う!」

 三年前の、いつもの部活帰り。

 突然一雨降られて。

 樋口はの手を取って、駆け出した。

 とりあえず、雨避けになる場所…

 公園まで。

ちゃん、大丈夫か?」

「ん、ヘーき… っくしゅん!」

 少し濡れて体が冷えたのだろう。

 大きなクシャミが出た。

 樋口は自分の大きなかばんを漁って、タオルと薄手のパーカーを取り出した。

「コレ使え。 あ、大丈夫、キレイやで!」

「でも、樋口くんは…?」

 首を傾げるに、樋口はにこりと笑った。

「俺は大丈夫や。 ちゃんは女の子やから、体冷やしたらあかん。」

 何の根拠があって大丈夫なのか、そんな事はわからない。

 だけど、樋口がそう言うと、本当に大丈夫のような気がするので、タオルとパーカーを受け取った。

「ありがとう…」

 にこりと笑ったに、樋口の顔が少し赤くなったが、はそんな事には気付かない。

 だけど。

 冷たかった雨を、少し温かいと思ったのは、側に樋口がいてくれたからだろう。





 ぎゅっと、膝を抱えて、その場に蹲る。

 同じような夏の日。

 同じような通り雨。

 ただ違うのは。

 となりに樋口の姿がないという事。





「? ちゃん?」

 突然名を呼ばれて、が顔を上げた。

「ゴメン、花形と図書館に行ってたんだ。 電話にも気付かなくて…」

 ビニール傘を閉じながら、藤真が首を傾げた。

ちゃん…? 大丈夫?」

 が目を伏せる。

「ゴメンなさい… 何か、色々思い出しちゃって…」

 蹲ったままのに、手を差し伸べる。

「少し休んだ方がいい。 何か温かい飲み物を出すから…」

 藤真の手を取って立ち上がろうとして、足元がふら付いた。

ふわ。

 咄嗟に抱き締めて支える。

「ゴメンなさい… ちょっと気分が………」

 藤真の腕の中で、はかすかに震えていた。

「先輩………」

「ん?」

 がゆっくり言葉を探す。

「…誕生日… おめでとうございます……… いつも、ありがとう………」

 の手が、ぎゅっと藤真のシャツを強く握る。

 藤真が眉を寄せた。

「不安にさせたみたいだね。 ごめん…」

 の髪を撫でる。

「俺は、どこにも行かないよ…」





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エンディング 『 藤真健司 』 です。

おそらく、これが一番甘いかと思われます。

おめでとうございます!


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