チョコが欲しいっ☆



 2月14日。―――

 年に一度、乙女達が勇気を出して、チョコと一緒に自分の思いを告白する日。

 しかし、この日に緊張しているのは乙女達だけではないのです。

 それはココ、湘北高校も例外ではありません。

 朝からそわそわしていた、バスケ部諸君。

 それは放課後、部活中にも目に見える。

 不自然な様子に、マネージャーのが首を傾げた。

「彩子さん〜、皆どうしたんですか?」

 彩子は楽しそうに笑いながら、わざと大きな声で言う。

、、今日が何の日なのか知ってる?」

 彩子の問いに、はただ首を傾げた。

「2月14日…あ、わかった。」

 何か言いかけたの口を、突然大きな手が塞いだ。

「…もがっ! Σ( ̄□ ̄;;;」

 の口を塞いだ人物を見上げて、彩子はにっこりと笑った。

「あ〜ら、先輩。 どうかしたんですか?」

 天使のような微笑の彩子に、三井はピクピクと顔を引き攣らせた。

「彩子〜、部活中に変な事言ってんじゃねえよ。」

 口を塞いだまま、三井はを背後から抑え付けた。

 体が密着している状態で、何気にちょっとオイシイ。(笑)

「ごめんなさい、先輩… 気が散っちゃいました?」

 相変わらずにっこり微笑んだ彩子に、三井は平然を装って練習に戻る。

 解放されたが、2人を見比べて首を傾げた。

「???」

「何でもないのよ。 さ、練習練習。」

 可笑しそうに肩を震わせて、彩子が言った。


 実は、湘北高校バスケット部は、誰よりもこの日を楽しみにしていたのだ。

 夏の後から新しく入った、アメリカ帰りの転校生。―――

 今や学校のアイドルの地位まで登りつめた(笑)、

 気配り上手で気の利く彼女が、遅くまで練習している部員達に… 渡さない訳がない。

 って言うか、からのチョコが欲しい!!

 たとえ義理でも、に貰ったと言う事がかなりの自慢になる。

 それが仮に本命チョコなら、もう死んでもいい!!

 一体いつ、チョコを配るんだ!?

 部員達がそわそわしている理由は、ソレだ。

 話によると、クラスでは一つも配らなかったらしい。

 インターハイで山王を破った時と同様、いや… もしかしたらそれ以上、バスケ部で良かったと思っている。

「さあ〜! ラストよ〜!!」

 ハッキリした声が、気持ちよく体育館に響いた。

 それぞれ練習を終え、のチョコを待った。

「お疲れ様です。」

 は彩子と一緒に、タオルとドリンクを配っていた。

「はい、三井先輩! お疲れ様です。」

 最後に三井に渡して、は残った仕事に戻ろうとした。

「…オイ。」

「はい?」

 首を傾げて振り返った>に、三井は言いたい事を飲み込んでしまった。

「三井先輩?」

 身長差のため、上目使いで見上げられて、三井は不自然に目を反らした。

(無視?Σ( ̄□ ̄|||)

 ショックを受けて肩を落とすを、彩子が宥めた。

「ほ〜ら、落ち込んでないで。 帰るわよ。」

 頭を撫でられて、は嬉しそうに頷いた。

「はい、着替えて来ます♪」

 体育館から出て行こうとしたを、今度は流川が捕まえる。

「? どうしたの?」

 流川はを見つめたまま、黙っていた。

「…流川君?」

 何も言わないのに手を放してくれない。

 の肩を掴んだままの流川に気付いた桜木が、慌てて駆けつける。

「コラ、キツネ! サンが困ってるじゃねえか!」

 桜木に蹴られながらも、流川はを見つめていた。

「…何か、忘れてねえか?」

 は首を傾げた。

「…一緒に帰る約束してた?」

 流川が首を振る。

「ノート、借りた?」

 流川は首を振る。

「えっと… あ、辞書借りてたよね?」

 流川は溜息を吐いて首を振った。

「…わからないよ。 何?」

 本気でわかっていないに、流川は更に大きい溜息を吐いた。

「………もういい。」

 呆れて着替えるために更衣室に向かう。

 もちろん、先程の仕返しに、桜木を殴って。

「あ!」

 突然大きな声を出して、がくるっと振り向いた。

 ようやくわかってくれたかと、バスケ部員は安心した。

 は部員達の間を走り抜けて、彩子に微笑んだ。

「彩子さん、はい。 コレ。」

 一瞬その笑顔に見惚れて、部員達は首を傾げた。

 可愛く包装された小さな箱。

 それは紛れもなく、チョコレート。

((((( 次は俺だ!!! )))))

 わざとらしく咳払いをして、変にそわそわする部員達。

「じゃ、校門で待ってますね!」

 はそう言うと、期待の表情を浮かべていた部員達の間をすり抜けて、体育館を出て行った。

は?―――――――――

 呆気に取られ身動きできない部員達に向かって、彩子が微笑んだ。

「悪いわね〜。 の愛を一人だけ貰っちゃってv」

 チョとレートの包みにキスをして、彩子は体育館を出て行った。

 残された部員達は、しばらく呆然としていたが間もなく。

「何故だ〜、サン!! 何故この天才にチョコレートをくれないんだ〜!!!」

 桜木が泣き叫び。

「……………」

 流川は石になったように動けず。

「………」

 三井は、砂となって崩れた。


っ、おまたせv」

 校門で待っていたに彩子が笑いかけた。

「寒いですね〜、早く帰りましょう。」

 真っ白のマフラーを巻き直しながら、が言う。

「少しだけ、待ってくれる?」

 彩子は校舎の方に視線を向けた。

 丁度、宮城がこちらの方に向かって歩いて来る。

「ア、アヤちゃん… ///」

 体育館でのチョコ騒動の時、その場にいなかった宮城に、彩子は例の包みを渡した。

「え? え!?」

 首を傾げ慌てる宮城に、細く笑う。

「余ったから。 あげる。」

 押し付けるように無理に持たせて、彩子はと帰った。


実は。―――

 あのチョコレートは、彩子の物で。

 部活が終わるまで預かっていて欲しいと、に頼んだ物だったのだ。

「ところで、皆何が言いたかったんでしょうか?」

 が彩子に訊ねた。

「何でもいいじゃない。」

 ふふふと笑って、彩子が問う。

「アンタさあ、本当に今日が何の日かわからないの?」

 が首を傾げた。

「…オリンピックの事、ですよね?」

 彩子は吹き出した。

「そうそう。 オリンピックよ、オリンピック♪」

 部員達には悪いが、バレンタインと言う事は黙っておこうと彩子は心に決めた。

「だって、楽しいじゃないv」

 結局は、部員達の忙しない訳を知らないまま、バレンタインを過ごしたのだった。

 だって、バレンタインなんて日本にしかないイベントだもんね。

 アメリカ帰りのが知らなくても仕方ないさ♪


余談。―――

「アヤちゃんのチョコレート…v」

 包みを開けて、宮城は中を覗き込んだ。

『義理』

 丁寧に書かれたチョコに、宮城は涙したと言う。

「義理チョコなんか、売ってんじゃねえよ!」

 ごもっとも。



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 ギャグです。 初めて書いたので、かなり楽しかったです。
 彩子さんステキv こんな先輩がいたら、楽しいでしょうね。
 バレンタインドリームでした。



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