あなたに出会ってから、もう一年が経とうとしています。

覚えていますか?

春の日のことを。





CROSS







。それが私の名前。

この春から湘北高校に入学する。

この春って言うよりは……今日?

今日が湘北高校の入学式。





私は高校生としてこの門をくぐり、桜並木の下を堂々と生徒として歩くことができる今日この日が、凄く待ち遠しかった。

「中学生」から「高校生」へ。

私のどこが変わるわけではないけれど、この差は大きいと思う。

ふと見上げた視線の上を、ほんのりと桜色に染まった花びらが優しく宙を舞う。

木は自然の摂理に従って毎年繰り返していることなのに、

この花をつけてくれたことは、私に対する祝福をしてくれるようだと思った。

1歩1歩、噛み締めるようにして足を踏み出す。この日のこの気持ちを忘れないように。





ウキウキとした気分が先行していたのか、慣れないローファーが悪かったのか。

それとも上を見ながら歩いていたせいなのか。

自分でも「あっ」と思う間もなく。視界が一転、空を見上げるようになる。

つまり、大勢の入学生(同級生になるんだ!)の前で派手に転んでしまった……のです。

そりゃあもう、これでもかってくらいに見事に。

きっとこの空間の視線は、私以外に向けられてはいないでしょうよ。






恥ずかしくなって慌てて体を起こすと、後ろから影が差す。

「……?」

振り向くと、そこに居たのは180は越えている身長の男の人。

逆光で顔は見えないけれど。




彼はじっと私を見下ろしてボソリと一言。

「邪魔。そんなところに座ってんな、どあほう」

と言ってすたすたと歩いて行った。




「なっ……!!」

私は一瞬唖然としたけれど、彼のあまりの態度に思わず拳を握って、

「目の前にコケてる女の子を、フツー放って行くか?!」と怒鳴りそうになったのだけど。

「ホレ、立てるか?」

目の前に差し出された手(さっきのどあほう男のものではない)に、ぐっと言葉を飲み込む。

「ありがとう」

そう言って手を握って立ち上がろうとしたのは良いけれど。

その手の主が、その……俗に言う「不良サン」なのですね。

自分で言うのもなんですけど、私ってば「不良サン」とは関わり合いになるような人ではないです。

だからこういう人と話すのって初めてなので、どう言ったら良いのか分からないのですよ。

機嫌損ねて殴られちゃ嫌だしな…。心の中で、彼の手を握ってしまった自分を後悔する。

彼は私の心境なんか構わずに、ぐいと引き寄せるようにして立たせてくれた。

ああ、お礼言った方が良いだろうなぁ…でも何て言おう?

「よーへー?」

頭の中は混乱している私を尻目に、声がした方からゾロゾロと

全身でいかにも不良!って主張している集団がやってくる。

ああ、彼らの気に障るようなことをしたら、私は高校生活を楽しむ間もなくシメられて、コンクリ詰にされるのね…。



そのメンバーが私たちの傍までやってくると、赤い髪のこれまた大きい人が私に気付いた。

「何、その子?」

身長差から必然的に見下ろされることになるんだけれど、何か怖い。

その子という一言が興味を引いたのか、仲間と思われる人に囲まれてる状態に……ついにコンクリ詰……?

お父さん、お母さん。先立つ不幸をお許しください。




「コケたんだよ、さっき。で、立てないみたいだったからさ」

手を差し出してくれた人は、柔らかく笑ってほんの少し――ほんの少しだけ私と彼らの間に体を割り込ませた。

彼の体が間に入った分、私と彼らとの距離があく。

その動作が物凄く自然で。優しくて、押し付けがましくなくて。

「ありがとうございます……」

心から、そう言えた。



「でよう、よーへー……」

コホン、と咳払いを一つする赤髪さん。

顔が髪と同じくらいに赤くなっていて、さっきからチラチラと私の方を見ているけれど…何?

「いつまで手、繋いでんだ?」



「「!!!!!!」」



慌てて手を離す。そう言えばさっき立たせてもらった時の手、まだ離してなかった…。

手が離れた瞬間、彼の指先が名残惜しそうに動いたのは、私の気のせいなの、かな。

「洋平、時間ねーぞ? 入学式まで」

「高宮、暴れるつもりか? 止めとけ止めとけ。説教食らって早く帰れねえって」

「だけどよぅ…せっかく爆竹買ったのに」

「大楠……」

彼は頭を押さえるようにして笑う。「かわらねーな…お前らは」

それから振り向いて私を見た。

「入学式始まるぜ。行った方が良いんじゃねえ?」

「え? でも、」

「あ、俺たちはサボるわ。行ったって説教食らうだけだし、退屈だしな」

ひらひらと手を振る。

「一緒にサボる〜?」

「高宮!」

けらけらと笑いながらの野次に、彼は怒鳴りつけるけれど、決して怖いものではなくて。

どこにでも見つけられるような、仲のいい友達同士のほのぼのした掛け合い。

「……私もサボっちゃおうかな」

自然に口から漏れたものは、こんな言葉だった。

「え?」

不意を突かれたように、目をぱちくりさせる彼。

「やり〜! デートだ〜」

浮かれ出す集団。それが子どもっぽくて……そして嬉しくて、思わず笑ってしまう。

「ねぇ、名前教えてくれる? 何て呼べば良いか分からないもの」

彼は笑って快諾し、一人一人を確認でもするかのように騒いでいる集団を指で指していく。

「右から順番に大楠、野間、高宮。赤いのが桜木」

半時計回りで紹介していくと、最後に自分を親指で指して。

「で、俺が水戸。水戸洋平。君は?」

です」

さんね。オッケー。よろしく」

そう言って水戸君は手を差し出した。

見とれるくらいに優しい笑顔と共に。






きっとその瞬間に、



「恋」ってキモチができたんだと思う。















あなたに出会ってから、一年が過ぎました。

覚えていますか?

春の日のことを。

あなたの人生と私の人生が偶然に交差したあの日を。

あなたに出会えたことが、私の人生での最高の幸運です。


願わくば。

お互いが交差する道ではなく、1つの道を歩いていくような。

そんな人生をあなたと歩いていけますように。









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水戸「…………ヒロイン、多重人格者? 本編と語りが……」
坂上「いや。高校の時の思い込みが激しい友人をモデルにして、
もっと強力にバージョンアップ。回想の形を取っているんで、1年で女らしくなりました…って無理?」
水戸「知らねぇな……ところでさ、そんなに怖くねーって俺ら」
坂上「中身はね。見た目はやっぱり怖いんじゃない?」
水戸「――ま、いいけどね。っと、リクエストはほのぼのドリームだっけ?」
坂上「ウス」
桜木「ふんぬー!さんを無視して通り過ぎていくとは、いい根性してるじゃねえか流川!」
流川「zzzzzzz……?(目が覚めた)」
坂上「お前ら出てくんな(酷)長くなる…」
水戸「絶対流川出すって言ってたくせに」
坂上「……(言い返せない)」
水戸「800HITありがとう、亜椎さん★」




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坂上偲 様より、頂きました。
 水戸ドリームです。
 イラストもお上手で、ドリームも素敵…v
 見習わなければ。(…無理)