バレンタイン



「実は、私… が良くわからないって言うから、買い物に付き合ったんです。」

 彩子が話を始めた。

 美味しいと評判の店でチョコを買い、可愛いと人気のあるラッピング用品専門ショップに連れて行ってやった時の事。

『あら、ラッピング… 一つだけ他のを買うの?』

『はいv』

 はにっこりと笑って、そう言いました。

回想終了。―――

「って、コトよ。」

 彩子が言った。

「同じ女として言わせて貰いますけど… アレは特別な人用のモノではないかと。」

 石のように固まってしまった4人に、彩子は楽しそうに続ける。

「4人のうちの誰かだと思って今日一日を付け回していたんですけど… 結局その特別なチョコを貰った人はいないみたいね。」

 4人は、互いに目を合わせた。

 無言の意志疎通。

「…宮城、今日はもう終わりだよな?」

 三井が訊ねた。

「バレー部の試合が近いから、体育館譲るんだよね、アヤちゃん。」

 宮城が彩子に話を振る。

は人と会う約束をしているみたいですけど…行きますか、先輩?」

 彩子がふふふvと笑った。

「ったりめえだ。」

 三井の言葉に、流川がこくんと頷いた。

「ミッチー、俺も行くぞ!」

 桜木が叫んだ。

「はいはい。 10分後に、ココに集合。 いいわね?」

 彩子がまとめて、一同は帰り支度のために一時解散した。



 早めに部活が終わり、は時間を確認しながら学校を後にした。

 軽い足取りで駅に向かいながら、背中にチクチクと痛いものを感じる。

 何度か振り返って、首を傾げた。

「…気のせい、だよね?」

 自分にそう言い聞かし、はそれ以上振り返らなかった。

 物陰に隠れながら、4人はの後を付ける。

「…駅、に向かってるな。」

「家と逆方向ですね。」

「アヤちゃん、コレってストーキングじゃぁ…?」

「……………」

 上から順に、三井・彩子・宮城・流川である。

 本来ならばこの場にいるはずだった桜木花道は?

「桜木花道なら帰ったわよ。 晴子ちゃんと一緒にね。」

 彩子さん、説明どうも。

 ちなみにチョコを貰ったようだが、ソレは流川にあげようとして返されたモノであった。

 そうとは知らずに上機嫌でバカ笑いをした桜木に、彩子はそっと涙したそうだ。

「あ…」

 が駅前のCDショップに立ち入った。

「あそこで待ち合わせてるのか?」

 同じく店に入り、じいっとを見守る4人。

 はヘッドフォンを付けて、洋楽を聞いているようだ。

 4人は息を飲んだ。

 の手には、特別なラッピングをされたチョコレート。

 一体そのチョコレートは、誰のため?―――



「へ…」

 突然音楽が聞こえなくなって、は首を傾げた。

 背後から小さく笑う声がして、振り向く。

「あ、先輩。」

 はにっこりと微笑んだ。

 同じように微笑んで、藤真はヘッドフォンを元の位置に戻した。

「悪い。 待っただろう?」

 の頭をぽんぽんと撫でて、藤真が言う。

 は首を振った。

「全然。 行きましょう。」

 藤真と並んでCDショップを出る。

 4人はと言うと、どうやらかなり驚いている様子。

 その内の2人は、ショックで何も言えないらしい。

「あらあら。 待ち合わせの相手は藤真さんだったのねv」

 彩子が楽しそうに言った。

「ま、まだチョコをあげるって決まった訳じゃないですよ。」

 放心状態の2人に、宮城が言った。

「…そうだよな。」

 辛うじて、三井が言った。

 内心、いっぱいいっぱい。(笑)

「あらぁv」

 彩子が変な声を出したので、3人が達に目を移す。

「寒くないか?」

「サムイです。」

 即答するの首に、藤真は自分のマフラーを巻いてやった。

「これなら大丈夫だろ。」

 細く笑った藤真に、は大きく頷いた。

「あ、そうだ!」

 思い出したように、チョコレートの包みを差し出す。

「先輩いっぱい貰ったと思うんですけど、チョコレートです。」

 にっこり笑って言うに、藤真は細く笑った。

「貰ってないよ。 好きでもない子から貰ったって困るだけだから。」

 そうですかと軽く流されて、藤真は内心がっかり。(笑)

「愛情込めた?」

 小さく吹き出して、が答える。

「溢れるくらいv」

 もちろん、離れた場所で盗み見ている4人に会話は聞こえない。

 仲がイイのを、見せびらかされているようだ。

「実際見せ付けているんだけどな。」

 藤真が呟いた。

 別に特別なチョコレートを貰った訳ではない。

 チョコレートをくれると言うに、別のラッピングをしてくれと頼んだだけの事。

 害虫からを守るには、丁度良い殺虫剤だ。

 腕を組んで歩き出した2人に、流川と三井はとどめをさされた。

 ショックで石と化した二人を残して、彩子と宮城は帰って行った。

 アメリカ帰りのにとって、腕を組むくらいなんでもないのだが。



帰宅後。―――

 は帰って来るなり窓を開けた。

 隣の家の窓を開け、誰もいない部屋にお邪魔する。

「…やっぱり帰ってないみたい。」

 は綺麗に片付いた机の上に、大きな箱を乗せた。

 ペンを走らせ、メモを残す。

『おかえり。 作ったから食べてね。 より。』

 箱の中身はガトーショコラ。

 かなりの自信作である。

 ちなみに特別なチョコかどうか聞いたところ。

「だって、学校にケーキ持って行けないでしょ。 形が崩れちゃうもん。」

 特別な気持ちは、どうやらないらしい。

 相手は手強いぞ! がんばれ、皆!!(笑)



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 バレンタインドリーム終了です。
 藤真さんが書きたかったんです、それだけです。
 2作品書き上げましたが、どっちに転んでもギャグにしかならない…
 いや、書いていて楽しかったですけどね。(笑)
 ガトーショコラ…お相手はどなたでしょう?
 それは、連載ドリームの方で、その内明かされると思いますけどね。(逃)



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