バレンタイン



 2月14日。

朝。―――

「桜木君。」

 突然名を呼ばれ、桜木の背に電流が走った。

「は、はい! サン… な、なんですか?」

 緊張した桜木とは対照的に、はにっこりと微笑んだ。

「はい、チョコレート。」

 固まってしまった桜木に、は首を傾げた。

「もしかして… 甘い物嫌いだった?」

 困ったような声に、桜木は慌てて否定した。

「ち、違います! この天才にチョコをくれるなんて! さすがサン!!」

 照れ隠しか、大きな声で強がり、桜木はいつものバカ笑いをした。

「良かった。 美味しくないかもしれないけど、一生懸命作ったの。」

 の微笑みに、桜木花道ノックアウト!(笑)

「じゃあね、桜木君。」

 は笑顔を残して教室を出て行った。

 可愛らしいラッピングのチョコに目を落として、桜木は涙ながらに呟いた。

「い、生きてて良かった。」

 生まれて初めて、チョコを貰ったのだ。

「俺達も貰ったけどな。」

 水戸の呟きは桜木には届かなかった。

「…桜木花道ハズレ、と。」

 教室の外で、彩子がメモを取っていた。



休み時間。―――

ちゃん、ありがとう。 ///」

 少し照れた様子で宮城がチョコを受け取った。

「いいえ、いつもお世話になってますから。 これからも、よろしくお願いしますね。」

 にっこりと微笑んだに、宮城の頬が緩む。

「じゃ、先輩。 私行きますね。」

 パタパタと走り去るの背を見送って、宮城はチョコに頬擦りをした。

「…リョータ、ハズレ。(-_-#)」

 何やら不機嫌そうに、彩子がメモを取る。

「ア、アヤちゃん… /// 」

 宮城は慌ててチョコを隠し、彩子を見つめた。

「アヤちゃんは、俺にチョコくれないの?」

 気体に満ちた眼差しで、じぃっと彩子を見つめる。

 彩子はにっこりと笑った。

「ごめんね。 一個足りなかったから、リョータの分あげちゃったの。 今はそれどころじゃないし。」

 ショックを受けた宮城を残して、彩子はの後を追った。



昼休み。―――

「あ、探したよ、流川君。」

 屋上でMDウォークマンを聞きながら寝そべっていた流川が、体を起こした。

「はい。 チョコレート。」

 にっこりと笑って包みを差し出すに、流川は心の中で舌打ちをした。

「あ… いっぱい貰ってる…よね? 私のは、いらない?」

 少し困った様子で首を傾げたに、流川は首を振った。

「…全部返した。」

 机や下駄箱に入っていた物は仕方がないが、手渡されたチョコレート類は一切受け取らなかったのだ。

「? チョコ、キライ? 大丈夫よ。 甘さをおさえて作ったから。」

 にこにこと笑っているに溜息を漏らし、流川はチョコを受け取った。

「…さんきゅ。」

 そして再び横になる。

「どういたしまして。」

 背中越しに声をかけて、は戻って行った。

 その背を見つめて、溜息が一つ。

「…好きでもねえヤツからのチョコなんかいらねえんだよ、どあほう。」

 包みを開けると、トリュフと、チョコチップクッキーが出て来た。

「ど〜せ、全員に配ってるんだろ…」

 クッキーを一つ口に入れて、流川は再び舌打ちをした。

「あらら… 流川もハズレ?」

 隠れて見守っていたらしい、彩子さん。

 メモリながら、不敵に笑う。

「…となると、特別なチョコは、あの人ね。」



放課後。(部活終了後)―――

「あ、三井先輩〜!」

 大きく手を振りながら、が叫んだ。

 その声に内心かなりドキッとしたが、三井は平然を装った。

「…何だよ?」

 明らかに不自然で、隠れて覗いていた彩子は声を殺して笑ってしまった。

 もっとも、少し(?)天然のが、そんな様子に気が付く筈がないが。

「探しましたよ、どこにもいないんだから。」

 校庭の水道付近にパタパタと駆け寄って、は包みを差し出した。

「はい。 チョコレートです。」

 にっこり笑って続ける。

「手作りで、ナマモノですので。 お早めに召し上がり下さい。」

 三井は受け取ったチョコを見つめた。

(…ヤバイ。)

 今まで貰った中で、一番嬉しい。

「他にもたくさん貰ったと思うんですけど、ちゃんと食べて下さいよ?」

 少し得意気に言うに、口元が綻ぶ。

「…貰ってねえよ。 全部突っ返した。」

 その台詞に、天然少女が首を傾げた。

「先輩も流川君も、甘い物キライなんですか? 返したって…?」

 三井は慌ててを問いただした。

「流川っ!? アイツもそう言ったのか?」

 凄い剣幕に、はわずかに後ろに下がる。

「は、はい… 言ってましたけど…?」

「他に何か言われなかったか!?」

 の細い両肩をがしっと掴んで、三井が言った。

「い、言ってません〜!」

 の答えでやっと落ち着きを取り戻し、三井は溜息を吐いた。

 怯えてしまったの頭を、ぽんぽんと撫でる。

「そっか… ならいい。 チョコ、さんきゅな。」

 中々機嫌が宜しいらしく、三井は鼻歌を歌いながら去って行った。

「あら? おかしいわね…」

 体育館の入口の所で、丁度、盗み見ていた彩子にバッタリ鉢合わせる。

「なっ、彩子! 何してんだよ!?」

 真っ赤になってチョコを隠す、三井。

 彩子はし〜っと、仕草だけで三井を黙らせた。

 何やらメモを取っていたらしく、三井はそのメモ張を覗き込んだ。

 それには、桜木・宮城・流川・そして自分が書いてあったのだが、それらには全て、×印が付けられていた。

「…何だコレ?」

 三井が問うと同時に、流川をからかう桜木を宥めながら宮城がやって来た。

「役者が揃ったわね。」

 彩子が楽しそうに笑った。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 バレンタインドリーム、第二段です。
 どっちにしろ、ギャグになるみたいで…(苦笑)
 長くなるみたいなので、二つに分けました。
 それでは、後半どうぞ。



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